みじかいはなし | ナノ



「小太郎の髪は私の髪と全然違う。凄く、凄く綺麗な色だね」

そう言いながら微笑みかければ貴方は首を横に振りながら私を強く強く抱きしめる。言葉なんて必要ない。想い合い、感じ合えれば、それで私は幸せだから。けれど時々、気になるの。
ねぇ小太郎、どうしてそんな顔をするの?どうして私を抱きしめたの?どうして・・・・・・言葉を交わさない分、分からないが沢山あって節節凄く不安になる。だからと言って聞く勇気も無くて。
ねぇ小太郎。私の事・・・・・・


小田原城の屋根の上
小太郎と肩を並べて座りながら空一面の星を見上げていた。眩いばかりに光る星のせいか、夜なのに辺りは然程暗くは無い。こうしていると一瞬、時が止まった様にも感じられる。いっその事止まってしまえばいいのに。

しかし、そう思っていられるのも束の間で。暫くすれば北条の小太郎を呼ぶ声が聞こえてきた。スッと立ち上がり、小太郎は私をお姫様抱っこすると風の如く北条の元まで飛んで行く。嗚呼、2人の時を邪魔する者が憎い。それが例えお世話になっている北条と言えど同じ事。この世界が私と小太郎だけのものだったら良いのに。

「小太郎・・・好きだよ」

風纏う中、聞こえるか否かの声で囁けば小太郎はコクリと頷いて私を見つめた。このまま接吻の1つでもしてくれれば良いのに。と思うが、硬派なのか気が無いのか(気が無いのは傷つくが)私に一切の事をしようとはしなかった、始めは触れることすら拒んだ程だ。だからこそ不安は募って行くばかりで。



私の自室の前で止まると小太郎は私を静かに降ろし1人北条の元へと向かって行った。私に「行かないで」なんて言う事はできないもの。瞬時にして目の前から消えた彼の立っていた場所を暫く眺め、溜息を1つしてから私は自室の中へと入った。貴方の事が分からない。けれど全てが今更過ぎで聞けないの。ねぇ小太郎、一言で良いの「好き」だと言ってよ。

ため息を落としてから俯いていた顔を上げれば、目の前には見知らぬ忍と呼ぶのも悩むほど堂々した迷彩柄の男が立っていた。

「見ない子だねー。アンタ、名前なんての?」

叫ぶ事も人を呼ぶ事もせず私は男を見つめた。ニコリと笑うばかりの何も映さないその目はとても冷たくて、ビクリと肩が震えたが、此処で負けては女が廃ると言い返す。

「人に名を聞く時はまず自分からです。その上、不法侵入ですか?訴えますよ」

「あはー。ま、言いたくなくても言わせるから良いや」

「な!ちょ、放して!」

いきなり腕を捕まれ担ぎ上げられたかと思えば、男はそのまま外へと飛び出した。何故だろう可笑しい、小太郎が侵入者を見逃すわけないのに。嫌だ、助けてよ小太郎。



気がつけば森の中。迷彩の服を着た男はどうやら矢張り忍のようで、ペースを落とす事無く足を目的地へと進めている。私はと言えばどうせ勝ち目はないだろうと、何の抵抗も出来ずにただ荷物のように運ばれた。自分の非力さが恨めしい。

「アンタさー、風間の女ー?」

「・・・・・・、」

「あれー無視?もしかして俺様嫌われちゃってるー?」

ふざけた口調でそう言いながら迷彩の忍はガクンと崖を急降下し、激しく私の体を揺らした。いきなりの衝撃で思わず驚きの声が漏れ、それに合せるように忍は笑う。

「ッ・・・ククッ」

「・・・ッ最低。あー今すぐこの人の頭上に隕石落ちてこーい!そして私を小太郎の所に返してくださーい!」

「んー、残念だけどそれはできないなー」

「何故ですか?」

少し苛立ちながら声を荒げる私に対し、迷彩の忍は変わらずマイペースに会話を続ける。

「あの風間に好かれる少女なんて、興味が沸くのは普通でしょ」

「(あの風間?いや、それより)・・・本当に、小太郎は私の事好いてるのかなぁ、」

「ん?」

「小太郎が進んで私に触れた事なんて一度も無い。寧ろ、拒まれてる、から」

私の答えに、迷彩の忍は何も言わずにスピードを速める。先程より私を抑える力が強くなったのは気のせいだろうか。しばらくの間を置いてから、口を開いた彼の表情は少し切ないものがあった。

「俺様もさ、惚れた女の子には同じ事するかも。汚れた手に触らせたくないし?ほら、忍ってえぐいお仕事多いからさ。ま、俺様、風間の旦那ほど酷い仕事はしてないけどー?って、ちょ、聞いてるー?おーい」

もし本当に小太郎がそんな事考えてるんだとしたら馬鹿だよ。忍とかそんな事どうでも良くて、汚れてても酷くても何でも良い小太郎が、小太郎が好きなのに。触ってくれない方が辛いし、胸が痛いのに。

「・・・ひぐっ。汚れてても良いの!私は、私は小太郎が大好きなのッ!」

「ちょ!?」

森中に響き渡る程の大声で叫んだのとほぼ同時。私を担いでいた忍は何かを避ける為に体制を崩し、真っ逆さまに私は落ちた。死ぬのを覚悟で目を強く瞑るが、どうした事かいつまでたっても痛みが襲ってこない。可笑しいと思いそっと目を開けば、目の前には愛しい彼の姿があって。

「こた・・・小太郎!」

「ッ、あーらら、見つかっちゃった」

目に涙をためながら、ぐしゃぐしゃの顔で小太郎にぎゅと抱きつけば小太郎はそっと私の頭を撫でて、それに続くリップ音。少しだけ触れた唇と唇、一気に全身の熱が3度は上昇した。

「・・・こた、ろっ」

「ヒュー♪見せ付けてくれるねぇ」

迷彩の忍は木の上に立って私たちを煽る。その声に反応して視線を彼に移せば、口パクで「よかったね、なまえちゃん」とだけ言い姿を消した。何で私の名前を知っているんだ、何で立ち去るんだ。何だか、これでは小太郎とくっつかせる為に私を攫ったとしか思えないのだが。

目線を小太郎に戻すよりも早く抱き上げられ、城へと足を急ぐ小太郎に強く抱きつきながら、私はじっと彼の兜で隠れて見えない目を見つめた。

「小太郎の髪は私の髪と全然違う。凄く綺麗な色だよ」

呟いた言葉に小太郎はコクリと頷く。どんな過去があったって良い。どんな仕事をしてたって良い。この髪の色が例え人の血で染められていても良い。私は、貴方の全てが好きなのだから。

「私の事、好き?」

やっと聞けたこの一言に、貴方はそっと頷いた。


‐‐‐‐‐‐‐‐
知夜さまへ
16000番ありがとうございます!
初めての小太郎にgkbr!こんなんできました。
From.ゆゆこ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -