学校から出てすぐのバス停で、たまにチラリと腕時計を盗み見て何台かバスが止まっては過ぎていくのを見逃し、あと少し、あと少し、と心の中で呟いて本を読みながらバスを待つ、否。彼氏である幸村を待つ。
もうすぐ来るかと思うと恥ずかしくて緊張して、さっきからドキドキと煩い心臓。
でも可笑しいのが、幸村は私が待ってる事をしならないってコト。ストーカーみたいに私が一方的にタイミングを合わせて待ってるだけ。幸村は私が待ってるって気がついてないのだろうか?
本当は『待ってるからね』って伝えて普通に教室で待ってれば良いコトなのに、どうしてもできない。レベルの低い、プライド。
「あ、幸村!部活終わったんだ?」
「うむ!なまえ殿は何故まだ残っておるのだ?」
「図書室行っててさ」
そっと幸村の横に並び手を絡めて駅に向かって歩き始める。これがいつものパターン。少々複雑だけど、一緒に帰れるだけ良いと思う。これが、“偶然の帰り道”でなければなおの事いいのに。
だけど駅に着いたらお別れで、じっと見つめ合ってバイバイするんだ。私は寂しい思いでいっぱいなのに、『また明日』そう言うと幸村はすぐに去ってしまう。そして更に胸が痛むんだ
時々、もっと胸が重く痛む。
女の子と話をしている時に苛々するのは勿論だけれど、タイミングを逃して幸村が先に帰ってた時なんて、涙が溢れ出して少なくとも次の日の朝まで沈んでる。
言われなくても分かってるよ、私は面倒くさい女なんです。勝手に盛り上がってかってに沈んで、はた迷惑だって事も気づいてるよ。でも好きすぎて自分に制御できなくなるんだ
「なまえ殿、如何なされた?」
「寝不足なだけだから、何でもないから」
こういう時は当の本人が気づいていない事が一番辛い。
気づけよ馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!でもそんな事言えないし、勉強は幸村のほうが出来るし、恋愛経験が少なくて扱い方分かんないってのも分かるけどさ、思わず腹が立っちゃって冷たい態度もしてしまう。混乱させるって分かってるのに、自分の感情をぶつけてしまって私って本当に嫌な奴だ
「なぜ泣いておられる?」
中途半端に放置するくらいなら話かけないでよ
「某のせいか?すまぬ・・・」
「何がいけないか分かってないくせに!」
泣いて喚いて、どうしたら良いのか分からない。こんなに好きなのに好きなのに好きなのに!でも、きっと幸村にとって私という存在は人生ゲームの配偶者なんだろう。たまたまそのコマに止まって、人生がそういう風に流れて行っただけ、要はただのアイテムなんだ
「もう良いの、理由も言わず怒ってごめんね」
「しかし、それでは・・・」
「私が我が侭なだけだから、気にしないで、本当ごめん」
全てが夢だったら良いのにと思う。けれどこれは現実で、剃刀で手首を切れば痛いし血は出るし、キスをすれば温かい感覚がある。だから、ただ、ほんの少し整理をつけるの。それだけで気持ちも空気もガラリと変わる
「幸村・・・今日も部活なの?」
「う、うむ」
「そか・・・でも、あの、」
「なんでござるか?」
「教室で待ってるから、一緒に帰ろ?」
偶然じゃなくて、約束がしたい
それだけでこんなにも気分も世界も変わるの