みじかいはなし | ナノ



静かな国語の授業の空気、眠気でうとうとしてた俺を起こすように隣の席の女子は話しかけてきた。普段から誰とでも接する俺は別に普通の事だが彼女は普段あまり異性と言葉を交わさないため不覚にも期待をしてしまう、本当は俺が好きなんじゃないか?なんて。俺の思い過ごしだってのは分かってるつもりなんだけどな。

「あの、」

「ん?あぁ、幸村に好みのタイプ聞いたんだけど破廉恥だって逃げ出しちまって」

「そっか、ありがとね」

残念そうに俯く表情からして本気で好きなんだろうし応援してやりたい気持ちは大きいけれど相手はあの幸村で、彼女も彼女で奥手だなーってのは初めて会話した(隣の席になって俺から声をかけた)時から思っていたことだし。此処は俺がなんとかしてやんねぇと発展は絶対にないだろう。

彼女の方を見てみれば、残念そうに声にならない溜息をついていた。俺も恋は沢山してきたし今の彼女の気持ちは痛いほど分かる、それに実を言えば好きな人を無理やり(好きな人を聞いたら尋常じゃなく顔を赤くしてたから思わず)聞き出したのは俺だし。だからこそどうにかして仲を持ってあげたい。

「気を使わないでね、高望みだってのは分かってるし」

「なに言ってんだい!そんな可愛い顔して」

「駄目よ。私、地味だし。クラスについていけてない」

お世辞なんかじゃなく本当に彼女は可愛いと思う、それこそ政宗が手を出さないのか俺が不思議に思うほどに(きっと政宗の周りにはキャピキャピした女の子たちが群れてて見えないんだろうけど)静かな(少し暗い?)空気も、独特の笑い方も俺は嫌いじゃない。寧ろ幸村には勿体と思うくらいだ。まぁ、それはお節介って奴か。

「ねぇ慶次くん」

「んあ?」

「慶次くんの好きなタイプって何?」

「俺の?んー・・・」

幸村に恋してるんだって知ったときから幸村の話ばっかだったから不意をつかれた質問に少し驚いた。俺のタイプ?そもそも俺にタイプなんてあるんだろうか、仲良くなった女の子には大抵告白されなおも気が合えば付き合ったりは何度かしたが一々タイプなんて気にした事はなかったから今思えばみんな性格はバラバラだった。

「特にないかな」

そう答えれば「そっか」と、元々興味ないんだろうけどそれでも冷めた言葉を俺に返してきた。いや思えば幸村の話をしている時もそこまで盛り上がりを見せた事はない。だから彼女が誰かと付き合い胸に熱を灯す瞬間というものを見てみたい気持ちがあるのかもしれない、幸村と幸せそうに笑い合う彼女を見てみたいと。それから暫く自分の机を見つめ何か考えた素振りを見せたあと、彼女は再び俺の方を向いて口を開いた。

「慶次くんはどうして恋をするの?」

一言一言に合わせて動く可愛らしいぷっくりとした唇に目を奪われていた俺は真剣にじっと見つめて彼女の言葉に何も言えなくなって、その視線が少し怖くなって、一度黒板に目をやってから目を瞑って机に顔を伏せた。何だかどうしようもなく胸が痛くなったんだ。

「慶次くん?」

「・・・なまえちゃんは、何で?」

「私は恋って素敵なものだと思うの、ロマンチックで本能でも科学でも説明できない不思議なもの」

「そんな事いうなんて意外だな」

「でもね、」

現実主義者だと思っていた彼女の言葉に思わず顔を上げていた。だけど彼女は俺のほうは見ないでただ自分の机を見つめて言葉を続けてる。

「人間には身体の死と同時に心の死がある、だからこその恋なんじゃないかとも思うの」

「わりぃ、意味がよく分かんねぇや」

「それは慶次くんが本当の恋をしてないからよ」

「・・・ハハ、」

ストレートに図星を言われて俺は言葉を返せなくなっていた。それでも構わず彼女は言葉を続ける、俺と話してた中で今までこんなに喋った日があっただろうか?なぜ彼女はこんなに真剣になってるんだろう、珍しい事もあるもんだ。

「慶次くん、ごめんね」

「何がだい?」

「私、幸村くんに興味ないの」

「・・・へ」

「私ね、付き合ってる人いるの」

ただ何も言えなくなった。じゃあ何で幸村が好きだなんて嘘をついたんだ?俺が好きで俺と喋りたいからなら理由が分かる、でも付き合ってる人がいるのに俺に構う理由なんてないんじゃないか。恋を深く語った事に理由があるのか?俺に何か気づけと言ってんのか?それじゃ分からねぇよ、はっきり言ってくれれば楽なのに。

「あ、政宗が呼んでるから行くね」

授業が終わってもボーっとしてた俺に彼女はそう声をかけて席を立ち上がった。もしかして付き合ってる相手って政宗の事だったのか?やっぱりアイツがこんな可愛い子を放置しておくはずがなかったんだよな、まぁ分かってた事か。けど何だろなこのムズムズする感じ。ああそう言えば前に政宗に彼女の話をした事があったような、まだ話したことも無かった時にクラスにはいない感じの笑顔に思わず胸を打たれたなんて、いつもの調子で。その後すぐに別の女子と付き合っていたから何もしなかったけど。そうか、政宗と付き合ってたのか。

「あ・・・待っ!」

「・・・なに?慶次くん」

「いや、何でも」

言いかけて何を言ったら良いのか分からなくなって口を閉じた。男として駄目だよな、と思いながらも何も言えないヘタレな自分が心底嫌だった。きっと彼女とまともに口を聞くのは最後なんだろう、だから彼女は真剣になって俺にあんな話をしたのだと思うし。でも理由は?真剣に話す理由は・・・。

「好きだった」

初めて彼女の感情的な表情を見た気がする、切なそうに冷たく笑う俺の好きな顔。彼女にもそんな顔があったのかと胸がドキリとなった気がした。いや気のせいなんかじゃなく確かに1秒ごとに俺の脈は早まっていく。今さら遅いと分かっていても気づいていながら自分の感情を無視してきた自分が酷く惨めに思えて、

俺も君が好きだった。
なんて、今さら口には出せないけれど、それでも君の言葉の意味を理解したいから政宗の傍で笑う君にそんな表情もするのかと胸を痛めながら本当の恋を君にする。もう後悔はしたくないから本気で君だけを見つめるよ。


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企画star dustさまに提出
From.ゆゆこ



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