みじかいはなし | ナノ



いつもの様に目が覚めてふと思い浮かんだのは最近見かけぬ女の事。毎日毎日うっとおしい事この上なかった女は此処の所姿を見せない。
長曾我部の所に行ってるとしても長すぎだ。我には関係の無い事だが、何故だか気になる。もしや昨日の夢のせいか?

森の中で顔を伏せて一人泣いている女。我の名を幾度と無く呼び続け、時折「愛している」と呟いては赤く染まった腕で涙を拭う。

ただの夢のはずなのに、そこが見知った森故か、ただの夢には思えずにいた。関係ない、とは言うものの我の正室である女、このまま放置しておくわけにも行かぬまい。
我は一人、その森へと向かった


やけに霧が濃い。我が行くのを阻むように、この先の何かを守るように纏う霧は、ある場所まで行くとふっと消えた。そこには何も無い。他の場所と変わらず生い茂る木々があるのみだ。違う事はただ一つ、鼻に付く悪臭は戦の度に感じる臭い―――腐敗した人間の臭いだ。


「迎えに来てやったぞ」


我の言葉に返事は無い、ただ木が大きく揺れて木の葉が舞う。もう感ずいているのだ、さっさと姿を見せれば良いものを・・・。感じた気配に後ろを向けば、髪は禿げ、肉が剥がれ落ち骨がむき出しの男か女かも見分けの付かぬ人間だったものが木の幹に横たわっていた。


「ずっと、そこに居たのだな」


動きはしない屍は涙を流す事も無く、我が触れるのを待っている様に、腕をだらんと伸ばしていた。
山賊に奪われたのだろう着物は無く、全身の無残な切り口から出た血は乾き、美しかったあの髪は無理矢理抜かれて売られたのだろうか?僅かな腹の膨らみの中も、もうただの死体でしかない


「一人で城を出るなと、あれ程言うたのに」


腐乱体に愛を誓う


「もう、何処にも行かせぬ」


温もりが消えた体を抱いて、脳裏に蘇る昔の姿に唇を噛み締めながら、珍しく涙を流したのは誰にも言えぬ2人の秘密だ



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