「好き」って言葉が日常に溶け込みすぎたせいで、誰に言われたって今一心に響かない。好きである事が普通であって、だからと言って「愛してる」なんて言われても安っぽくて下らないと思ってしまう。
こんな私は嫌な奴?だったら好きにならなければ良いのに貴方はどうしていつも私の傍にいるのよ。嗚呼そうか、貴方も嫌な奴だからか
半兵衛の家のソファーで寝そべってテレビを見る私、半兵衛は椅子に座って本を読んでいる。ふいに見上げれば思いっきり目が合う。ああやっぱり私の事が気になってしょうがないんだ、ね?半兵衛
「この鍵は誰のだい?」
「んー・・・・・拾った」
「なら後で交番に届けておくよ」
棚の上に置きっぱなしにしていた鍵、少し大きめの黒い髑髏のキーホルダーが付いているそれは、半兵衛の家の鍵でなければ私の家の鍵でもない。もちろん拾ったなんて嘘に決まってるのに半兵衛は何も言わず、その鍵をポケットに入れた。半兵衛だって拾ったものじゃないって分かってるのに、感じ悪。まぁ私も人の事は言えないけど
「半兵衛ー、私の事好き?」
「嫌いなら一緒に居ないんじゃないかな」
「じゃあ好きって言ってよ」
「嫌だよ」
付き合って1年、半兵衛は今日まで一度として私に好きなんて言った事はない。私も言った事無いけど、言われなれてるし今更半兵衛に言われたって誰に言われるのと変わらないと思う。けどプライド的に許せない、何で半兵衛は何も言わないのよ
つまんない、つまんない、
「さっきの鍵、私が貰ったモノだから」
「そう、じゃあ僕が貰っておくよ」
「私の家の鍵じゃないよ?」
「ああ、知っているよ。本当に君は可哀想な子だね」
「・・・・・・は?」
意味が分からない。何で私が可哀想なんて言われなきゃいけないのよ?
思わず怪訝な顔をしてしまう私に対して、半兵衛は極めて冷静で普段と変わらぬ顔で本から目を離した。大人ぶってムカつく。起き上がって半兵衛に顔を近づけて「何が可哀想なのよ」と喧嘩ごしに言ってみれば、ふーと一息ついてから今度は半兵衛が顔を近づけた
「寂しいなら、そう言えばいい」
「意味分かんない」
「かまって欲しいなら、そう言えばいい」
「・・・何、言ってんのよ「好き」とすら言ってくれないくせに」
みんな私を好きだと言うのに半兵衛だけは言ってくれない。みんな私と「付き合いたい」とせがむのに半兵衛だけは何も・・・、付き合ったのだって私から言った。私が言えば半兵衛だって好きになってくれるって思ったのに
自然と目頭が熱くなる。視界が歪んで半兵衛の顔が見えなくなって、ふいにした瞬きで頬が濡れた
「言葉だけでいいのかい?ならでも言おうじゃないか。好きだよ、誰よりも愛してる」
「嫌だ。言わないで」
「じゃあ何がしたいんだい?言ってほしかったんじゃないのかい?」
「こんなの、欲しくない」
私の涙を半兵衛は両手でふき取って、そっと額にキスをした。この年になってまさか額にキスされるなんて思ってもみなかったからか、唇にされるよりも恥ずかしくて、でも今はそれどころじゃなくて、ただ触れていて欲しかった。この手に触れられる安心感と、彼の口から発せられる意地悪な一言一言が私に更に涙を流させた
自分の事が分からない、もう何したいのか分かんないよ
「半兵衛が好きなんだってば」
「知っているよ、だから僕に嫉妬させたかったんだろう?」
「別にそんなんじゃ、ない、事もない、けど」
「素直じゃないね、」
「半兵衛だって人の事言えない!私をわざと不安にさせて、性格悪いよ」
「ああ・・・、そうだね。類は友呼ぶ、だっけ?」
触れることも、交わすことも
愛しい君だから、したいと思えた。その事に気がついたのは君の性格が悪いせい。私も人の事言えないけど、他の誰かじゃ駄目なのよ、やっぱり貴方の言葉が欲しい
「で、この鍵は誰のかな?」
「えと・・・政宗の」
「ああ、捨てておこうか」
きっと半兵衛は本当に捨てる。だって性格悪いから、私だって半兵衛が誰か女の鍵を持ってたら捨ててやるしね。とか言って実はとって置いていざと言うときに脅しネタに・・・ああ、どうやら彼も同じことを考えているらしい
似たもの同士、愛し合おうよ