みじかいはなし | ナノ



屋上で寝ていればバンッと勢い良く開けられたドア。授業中のはずだけど?暇だし噛み殺してやろうと思い嫌な予感も無視して現れた奴にトンファーを向ければ嗚呼やっぱり嫌な予感があたっていたようで思わず深い溜息をついた


「雲雀恭弥!相手しろ!」

「それ、人に頼む態度じゃないでしょ」

「・・・すみません。相手して下さい」


僕が言えば彼女は深く一礼して再び勝負を挑んで来た。何度目だっけ?なんかもうほぼ毎日の事だから忘れたよ。彼女は噛み殺す気さえ僕から奪う


「先輩?授業サボってるんですが・・・噛み殺さないんですか?」

「それじゃあ君の思うがままだからね」


彼女は酷いー!などと叫んで僕の頭にチョップを喰らわせた。油断してたけど、この子意外と俊敏で力が強いんだった。じんとくる痛みに少しだけイラッとして僕も思わず頭を叩き返していた


「ッたーい!どうせ暇なんでしょう?相手になりますってば」

「どうせ、って何?それに僕は暇じゃない」

「ただ昼寝してるだけじゃないですか」

「じゃあ君は何なの、僕の周りをうろちょろして。もしかして僕が好きなの?」

「ぷっ。先輩に恋とか笑える。てかナルシストかよ」


何この子。本気で殺すよ?じゃあ君が僕の周りをウロウロしてる理由って何なの?そうとは聞けずに黙っていたら「先輩?」と小首を傾げて彼女は覗いてくる。もうこれ以上イライラさせないで欲しいんだけど


「少年、恋には嘘も必要なのだよ」


そんな意味不明な事を言って彼女は可愛く笑った。僕が誰かを可愛い、だなんて頭どうかしてる。何と言葉をかけて良いか分からずに彼女をじっと見つめていればぷにっと頬を抓まれた。何?それって本気にしても良いって事なの?


「相手してくれないなら、もう良いですよーだ」


あっかんべーっと舌を出して彼女は去っていった。ぼくは呆気に取られ何も出来ず、残ったのはいつも以上に早くドクドクと脈打つ心臓だけ。


「何なの?あの子」


そんな僕の独り言に気が付いたら傍にいた黄色い鳥だけが反応して、何度か僕の名を呼んでから去って行った



・・・・・・



屋上で会話をして以来あの女は僕の傍に寄ってこなくなった。面倒くさくなくていいけど、どうしてもあの会話がスッキリできなくて何だかんだでイライラしてる事には変わりなく


「っああ・・・!!」

「ふぅ、つまらないな」


適当な草食動物を噛み殺しては、あの子方が全然強かったな、なんて気が付いたら意識の中に彼女は居て。勝手に入ってこないでほしいんだけど、と思っても意識の中に入れてるのが自分である事に変わりは無くて頭を抱えるのが日課になっている


「あれ?恭弥先輩なにしてるんですか?」


まさか裏庭で会うなんて思いもしなかったから驚いた。彼女に会うのは何日ぶりだろうか、嘘だよ覚えてる。4日ぶりだ。何てったってずっとイライラしてたんだからね。今日は金曜日、もう一週間が終わるのか。何だかやけに早い一週間だったよ


「ねぇ、この前のどういう事?」


我慢できずに彼女の質問を無視してそう聞けば「この前・・・?」と少し悩んでから、ああ!と人差し指を上げて「気にしてたんですか?意外です」なんて言って笑った。馬鹿にしてるの?とトンファーを向けようと思ったけど彼女の回答も気になったし黙って睨んだ


「だって先輩ったら一人で中学生日記みたいな事してるから」

「は?」

「私の自惚れなんて言わせませんよ?」

「意味分かんない」

「強がってるけど、先輩の顔すぐに赤くなるから」

「何が言いたいの?」

「私に惚れてるでしょう?」


今まで隠していたけど薄々気づいてた感情を彼女は簡単に僕に突きつけてニコリと笑う。だけど、そうだとも違うとも言えなくて僕は前と同様黙った。恋愛って良く分からないから、ある意味で僕の弱点なのかもね。


「少年、恋には正直さも必要なのだよ」


この前とは逆の事を言って不敵に笑う彼女は矢張り間違えじゃ無く可愛くて、僕の正常を掻き乱すからムカつく。でも肉食だからとか関係なく好きなんだと思う、そんなの僕らしくないな。なんて思いながら彼女の目の前まで近寄って笑ってやった


「悔しいけど、君の言うとおりみたいだね」

「まぁ私の言うことに間違いは無いですからね」

「先になまえが惚れたくせに」


そう言えばぼっと火照る君の頬、そんなの今まで態度見てれば分かることでしょ?なんて口には出さないで、ただ優しくキスをしてやった

「ねぇ、恋には正直さが必要なんでしょ?」


さっさとそうだって認めなよ。ぎゅっと抱きしめてやれば伝わってくる早い心臓の音。それから見たこと無い顔で動揺して「ずっと好きでした」と彼女は僕を見上げて告白した。
でも恥ずかしさと同じくらい僕に逆手を取られた事を悔しそうにする君はやっぱり可愛いね



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