シャットアウト | ナノ


▼ 意外と大きな背中


自然と目が覚めてしまった。寒いからとかじゃなく、息苦しいとかじゃなく、スッキリと気分良く目が覚めたのだ。起き上がってベッドの方に行けば匪口さんはまだ寝ていた。
スッキリ目覚めたと言っても少しはボーっとしている頭、布団からでると意外と寒い。私は匪口さんの布団の中に潜り込んだ


「匪口さん、ありがとう」


そう呟いてから匪口さんの手を探す。指先が触れて、つかまえて、手をそっと握ってみる。温かい匪口さんの手、大人の手って言うのかな?たった3歳差なのに匪口さんはやけに大人に見える。この際これから匪口君って呼ぼうかなぁ
・・・・・・ちょっと待て、何してるんだ自分!!匪口さんに好きな人がいたら、ただの迷惑でしかないのにね


「ごめんなさい」


そう言って手を退けようとすれば、その手は私がさっきまで握っていた手によって引き止められる。
普段よりも早く脈打つ心臓の音、ああ緊張してるんだ私


「匪口・・・さん?」

「なまえ、」

「ゆ、結也・・・」


「いつまで寝てんの?」

「・・・・・・ゆ、結也?あれ?今の夢!?あれ、あれぇぇぇ!?」

「煩いよ、朝飯何がいい?」

「おにぎり」


まさかの夢オチに撃沈。
だよね、うん、あって間もない女の子に手ぇ出すようなキャラには見えないもん
ズーンと上から圧し掛かるようなショックにソファの上で一人浸っていれば、匪口さんに呼ばれた。正直、会うのが恥ずかしい。寝起きとは言え呼び捨てにするなんて、はぁ、何してんだろ私



昨日は当たり前のように家に上げてくれて泊めてくれた。漫画の影響もあるかもしれないが匪口さんはいい人だと思う。まぁ外に放置されても困るのだけれど。
出会う前から互いに相手を僅かながらも知っていたためか、私に限ってかもしれないが警戒心は無いに等しい。匪口さんもそこまで怪しんだりはしてないようだ。それに怪しんでたら家に上げたりしないと思う



私は床に座り、低いテーブルの上に置いてあるコンビニのおにぎりを頬張る。その間に匪口さんは仕事に行く仕度をしていた。と言っても、あの緑の普段着に着替えただけだけど
着替える姿をボーっと見ながら思い出す、そういえば確か昨日の夜もコンビニだった。冷蔵庫には何も無いし、私が作るにも作れない。超不健康そうだ


「俺これから仕事だからさ、昼はこれで好きなもん食っといてよ。それから服とか適当に」


そう言って5万円を渡された、一文無しの私には大金。
たかが3歳差、されど3歳差。高校生と社会人の壁は大きいようだ


「昨日お金ないとか言ってたのに」

「ああ、それみょうじが稼いだやつだから」


すぐに昨日の事だとピンと来て、思わず顔が引きつる。私、凄い。まぁ半分以上は匪口さんのおかげだけど

私が5枚の1万円札と睨めっこしている間に匪口さんはもう玄関の方に居て、「じゃ、行ってくるからさ」と玄関を開けた


「行ってらっしゃい!!」


出て行く匪口さんにそう声をかければ、こちらを向いて少しだけ笑った気がした







(本人の前で言ったりなんてしないけど、少しだけカッコいいと思った)






「さぁ、どうしようかなー」


パジャマは匪口さんの借り物だし、服は高校の制服しかないし、下着も2日連続同じのはキツイしなぁ


「良し、行きますか!」


とりあえず制服に着替え、身支度を整える。
部屋にあったカレンダーを捲れば今日が2月の土曜日だという事が分かった。もしかしたら偶然の出会いがあるかもしれない


玄関に置かれた鍵を手にとって私は家を出た。


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