「バネってさ、あの子と付き合ってるの?」

「……はっ?」

今日、サエにそんなことを聞かれた。

あの子、とは、俺の腐れ縁的な存在であるアイツのこと。

「…付き合ってねーよ。」

素直に答えると、サエは、そっか、そうなんだ、いや、それならいいんだ。と、珍しくハッキリしない態度をとっていた。




その日の夕方。

ピンポーン

「はーい…って、お前かよ」

「うん、私。」

ちょうど今日サエと話した話題の中心人物が俺の家に来た。

「何か用か?」

「うん。お父さんが釣りに行ってきたの。大漁だから、これお裾分け」

「おお、サンキュー。母さん喜ぶよ。上がってくか?」

「うん。犬見たい」

勝手知ったる黒羽家に早速上がり込んで、飼っている犬へと一直線に向かった。

「………。」

後ろ姿を見ながら、ぼんやりと考える。


「(…こいつといる時の俺は、笑っている時間が極端に少ない。)」

そんなことに、ふと気付いてしまった。

「(別に、こいつといる時間がつまらないとか、そんなんじゃないんだ。…正直つまらない時も、あるけど。)」

「(楽しいと感じたことも無い。だけど、ただ単純に楽しくない、というわけでもない気がする)」

「(何なんだろう、この感覚は)」

相手も多分、俺といるときはあまり笑っていないと思うんだ。
犬に向かっては笑いかけているが、俺の目を見て笑いかけたのは、遠い昔のような気がする。


『付き合ってるの?』


今日のサエの質問が頭をよぎる。

「(付き合ってる…こいつと俺が)」

端からすると、俺たちは恋人同士に見えるのだろうか。

「(だとしたら、俺が望む恋人の風景は、こんなんじゃねぇ)」

お互いの目を見て、声を出して笑って。
お互いに、こいつといて楽しいと思えるような。
バカップルと言われようが問題ない。楽しけりゃ、いいじゃねぇか。

「(だからこいつは、俺の理想では無いんだ)」



縁側で夕日を眺めていると、犬を手放したそいつが俺の隣に座ってきた。

「犬、もういいのかよ」

「うん」

「ふーん…」

「………」

当たり前に、流れる沈黙。

普段の俺は沈黙という重い空気が大の苦手で、必死に話題を探すクセがある。

だけど、こいつとの沈黙は気まずいと感じたことが無く、俺は話題を探す気力もわかない。

だからこそ、この気持ちが何なのか分からないのだ。

すると向こうが唐突に口を開いた。


「…今日さぁ」

「ん?」

「告白されたの、佐伯くんに」

「えっ」


サエが、こいつに?告白?え?

『バネってさ、あの子と付き合ってるの?』

「…………あ、」

「?」

そっか。ちょっと考えれば分かったことじゃねぇか

「(サエはこいつが好きで、)」

「(だから)」

「(ああなんで気付いてやれなかったんだ)」

「(俺は本当に鈍感だ)」

色々な考えが頭の中に一気に襲い掛かってくる。

「………バネ?」

「っ、な、なんだよ」

隣から俺を呼ぶ声が聞こえて、考えることをやめた。

「なんだよって…バネ、急に真っ青になってたから」

「あ、ああスマン。で?どうしたんだよ?」

「…どうするんだろ」

「は?」

「バネ、私どうしたらいいかな?」

「どうって…」

お前の好きにしたらいいじゃねぇか。

「(…でももし、サエとこいつが付き合ったら)」

こいつはもう、俺のところに来なくなるのかな。

この俺達2人の時間は、無くなるのかな。

それは…

「………お前の好きにしたらいいじゃねぇか。これは俺じゃなく、お前が決めることだ」

「…」

「……ただ、俺は、…お前とのこの時間が無くなるのは嫌だ…」

「…え…本当に?」

ポツリと呟いた本音に、こいつが予想以上に反応したものだから。


「…や、そ、そんな、深い意味はねぇよ!?ただ、なんとなく今そう思っただけで、」

よく分からないけど、しまったと思い、必死に弁解する姿の俺を見て、相手はニヤッと笑った。

「ふーん?」

「っ!」

久々に俺へと向けられた笑顔は、俺の胸の中の何かを弾けさせるのには充分すぎる威力だった。


(こいつといる時間は、楽しくも何ともない。)
(つまらないとさえ感じることもある。)

(しかしながら、俺はただただ、こいつと一緒の空間で過ごすことが“当たり前”なのだ。)

当たり前、という言葉の奥に隠れている感情には、やっぱりまだまだ気付きそうにはないけれど。





………………・
逆に様提出文。

テーマは「思春期バネさん」。モンモンさせてみた

バネさんのタイプの「楽しいやつ」ってのは、ごく普通の、中学生らしい回答だと思うんです。

ていうかサエさんただの噛ませ犬状態ごめん

そしてボツ作品

ありがとうございました。

 


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