初恋の人だった。
小さい頃から、幸村くんの存在だけはなぜか特別だった。
それが生まれて初めての恋だとやっと気付いた頃、
幸村くんは病院に奪われた。




「もう、なんの感情も沸かないなあ…」

2階の廊下の窓の外から見える花壇のそばに、幸村くんの姿があった。
その後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟く私。

随分遠い存在になってしまったものだ。
昔はあれだけ仲が良かったのに、最近は、目を合わせた記憶すら無い。


「王者立海の、テニス部の部長さんなんて…、私なんかには、釣り合わなくなっちゃったしさ。」

いや、もともと私なんかにはもったいなさすぎる人なんだけど。

空は快晴、私のこのモヤモヤとした気持ちは知ったことじゃないようだ。

「………あ、…え?」

また、ふと見下ろすと
幸村くんがこちらを見上げているように見えた。

「ちょっと来てくれる?」

張り上げてもいないのに、よく通る声で幸村くんは私を呼んだ。



「…あ、ごめんね。走らせちゃって」

「ハァッ…う、ううん!全然…!何の用事?」

「特に用は無いんだけどね」

「………はい?」

一瞬思考が停止した私に、幸村くんはニッコリと笑った。

「あのね、もうすぐ僕誕生日なんだ」

「…?そ、そうなんだ」

「うん」

そこまで言うと、幸村くんはまた前を向いてしまったので、私も幸村くんの隣にしゃがみこんで、一緒に花を眺めてみることにした。

「…あの花、きれいだと思わない?」

「…え?あ、あのバラ?」

「うん」

幸村くんが指さしたのは、白くて、たくさん咲いているバラだった。

「本当だ、きれい。なんて名前のバラ?」

思ったよりすらすらと言葉が出てくる自分に安堵しつつ、幸村くんに尋ねてみた。

「モッコウバラだよ」

「…………モッコウ、バラ」

聞いたことのある名前だった。

「…君が、この花をくれたんだ」

「え?」

「この花に勇気をもらって、闘病生活も頑張れた」

「……」

そうだ。思い出した。
幸村くんの入院を耳にした頃、公園に咲いていたこのバラを見つけ、植木鉢に植え替え、幸村くんにあげたんだ。
強い花だと聞いたから、入院してしまう幸村くんに似合うかなと思った。
だけど、本当の理由は、幼い下心。

「(花言葉は、"初恋"…)」

この気持ちが伝われば、と思っていたんだ。
幸村くんはそんな昔の、私まで忘れてしまっていたようなこと、覚えていてくれたんだろうか。
チラと幸村くんを盗み見ると、幸村くんはおもむろに口を開いた。

「実は俺は、今まで恋、という感情を知らなくてね。でも今、初恋をしているかもしれないんだ。」

「…へぇ」

「だから、このバラ達を君にあげようと思う。」

「…………え」

もう一度はっきりと幸村くんを振り替えると、

「素敵な、花言葉だよね…。」

と呟いた。

「!…あ、え、えと、」

「…君が僕に、この花をくれた時の君の気持ちと、今の僕の気持ちが、同じだったら、いいんだけど。」

幸村くんは、珍しく少し俯いて、ぼそぼそと喋った。

「…じゃあ、僕はこれで」

「えっ、幸村く、」

幸村くんはまたニッコリと笑うと、足早にその場を去ってしまった。

「(…もうすぐ誕生日、って言ってたよね、確か)」

再びバラを眺めながら、何か、プレゼントしようと考えた。


初恋の意味を持つこの花とこの気持ちが、再び私の元へやってきた。
そんな晴れた日のことだった。



(初恋の再来)



………………・
神の子祭様提出

女子って好きって言われたら好きになっちゃうらしい(某漫画参考)。

ありがとうございました。

 


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