初恋の人だった。
小さい頃から、幸村くんの存在だけはなぜか特別だった。
それが生まれて初めての恋だとやっと気付いた頃、
幸村くんは病院に奪われた。
*
「もう、なんの感情も沸かないなあ…」
2階の廊下の窓の外から見える花壇のそばに、幸村くんの姿があった。
その後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟く私。
随分遠い存在になってしまったものだ。
昔はあれだけ仲が良かったのに、最近は、目を合わせた記憶すら無い。
「王者立海の、テニス部の部長さんなんて…、私なんかには、釣り合わなくなっちゃったしさ。」
いや、もともと私なんかにはもったいなさすぎる人なんだけど。
空は快晴、私のこのモヤモヤとした気持ちは知ったことじゃないようだ。
「………あ、…え?」
また、ふと見下ろすと
幸村くんがこちらを見上げているように見えた。
「ちょっと来てくれる?」
張り上げてもいないのに、よく通る声で幸村くんは私を呼んだ。
*
「…あ、ごめんね。走らせちゃって」
「ハァッ…う、ううん!全然…!何の用事?」
「特に用は無いんだけどね」
「………はい?」
一瞬思考が停止した私に、幸村くんはニッコリと笑った。
「あのね、もうすぐ僕誕生日なんだ」
「…?そ、そうなんだ」
「うん」
そこまで言うと、幸村くんはまた前を向いてしまったので、私も幸村くんの隣にしゃがみこんで、一緒に花を眺めてみることにした。
「…あの花、きれいだと思わない?」
「…え?あ、あのバラ?」
「うん」
幸村くんが指さしたのは、白くて、たくさん咲いているバラだった。
「本当だ、きれい。なんて名前のバラ?」
思ったよりすらすらと言葉が出てくる自分に安堵しつつ、幸村くんに尋ねてみた。
「モッコウバラだよ」
「…………モッコウ、バラ」
聞いたことのある名前だった。
「…君が、この花をくれたんだ」
「え?」
「この花に勇気をもらって、闘病生活も頑張れた」
「……」
そうだ。思い出した。
幸村くんの入院を耳にした頃、公園に咲いていたこのバラを見つけ、植木鉢に植え替え、幸村くんにあげたんだ。
強い花だと聞いたから、入院してしまう幸村くんに似合うかなと思った。
だけど、本当の理由は、幼い下心。
「(花言葉は、"初恋"…)」
この気持ちが伝われば、と思っていたんだ。
幸村くんはそんな昔の、私まで忘れてしまっていたようなこと、覚えていてくれたんだろうか。
チラと幸村くんを盗み見ると、幸村くんはおもむろに口を開いた。
「実は俺は、今まで恋、という感情を知らなくてね。でも今、初恋をしているかもしれないんだ。」
「…へぇ」
「だから、このバラ達を君にあげようと思う。」
「…………え」
もう一度はっきりと幸村くんを振り替えると、
「素敵な、花言葉だよね…。」
と呟いた。
「!…あ、え、えと、」
「…君が僕に、この花をくれた時の君の気持ちと、今の僕の気持ちが、同じだったら、いいんだけど。」
幸村くんは、珍しく少し俯いて、ぼそぼそと喋った。
「…じゃあ、僕はこれで」
「えっ、幸村く、」
幸村くんはまたニッコリと笑うと、足早にその場を去ってしまった。
「(…もうすぐ誕生日、って言ってたよね、確か)」
再びバラを眺めながら、何か、プレゼントしようと考えた。
初恋の意味を持つこの花とこの気持ちが、再び私の元へやってきた。
そんな晴れた日のことだった。
(初恋の再来)
………………・
神の子祭様提出
女子って好きって言われたら好きになっちゃうらしい(某漫画参考)。
ありがとうございました。