嫌いな先生の授業をサボって、辿り着いた屋上。


そこには、先着がいた。


「……おや?伶奈さんですか」

ドアのすぐ隣で座り込んでいたのは、

「柳生じゃん。珍しいね。あんたがサボるなんて」

私は何のためらいもなく、
柳生の隣に座る。

「サボる、という行為は初めてです。」

そうだろうね。
今ごろ先生は、優等生柳生のことを心配しているだろう。


「ふーん。どう?初サボりは」

尋ねると、少し微笑んだあと、

「居心地は正直良くありませんね。罪悪感で押し潰されそうです」

と、少し嫌味を含めて言われた。

彼がそんな冗談めいた嫌味を言うのが珍しく、面白かった。

「なら、教室戻れば?」

そう言うと、彼は前を向き直して、風をサラサラと感じた。

「いえ、居心地は悪いですが、こうして風に当たり、物事を考えることに耽ることは、案外悪く無いものです」

そこである疑問が浮かぶ。

「考えごと、してたの?」

「…えぇ」

「悩みなら、聞くよ?」

「…」

「あ、別に私が女の子だからって、遠慮しないでいいからね?」

「…そうですか…では、聞いて下さいますか」

「どうぞ」


「同じクラスの方が、告白、をして下さって」

「まじか」

その時、私の脳裏に一人の女の子が浮かんだ。

「…もしかして、ポニーテールにいつもシュシュしてる子?」

「おや、ご存知なんですか?」

「柳生のことが好きなことで有名な子だった。
気付いてなかったの、
多分柳生だけなんじゃないかな」

「…そうなんですか…」

少しショックそうな柳生。
おそらく、自分だけ気付いていなかったことについてだろう。

「まあでも、良かったじゃん、可愛い彼女が出来て」

「あ、いや…お断りしました」

「は」

「丁重に、お断りしました」

「なんで」


紳士の柳生が、女の子の要求を受け入れないなんて。

正直、柳生の彼女になるには、早い者勝ちだと思ってた。

柳生でも、女の子をガッカリさせること、あるんだ


「…女性としてはちゃんと意識していたつもりなんですが、
恋人関係のような、そういう意識はしていなかったんです」

「……」

つまり、女友達としてしか見ていなかったのか。


「まさか、彼女が私のことを、そんな風に思ってくれているとは、考えていなくて」

「…そっかー」


「…良い友人だったんです、本当に。
何年経っても、変わらず良い友人でいたいと思っていました。
…しかしそう思っていたのは、私だけだったようですね。
良い友人にも、もう戻れなくなった。
彼女との絆も今日で終わりです」

「そんな悲しい言い方」

「テニス部で、嘘や下心を見抜くことには鍛えられていたはずなんですがね…」

はあ、と柳生はため息をつく。

「…ま、恋心はまた、別の話だろうからね」

「気付けなかった私が悪いのに…何故か、裏切られた気分です」


「気持ちは分かるよ、柳生は悪くない。
てゆうか、誰も悪くないよ」


「…あの、伶奈さん」

「ん?」



…あなたは、違いますよね?

「…え」

下心とか、恋心とか。

そういう目的で、私と仲良くしてないですよね?

…私たちは、友人、ですよね?


「……」




嘘を吐く
(君と、私の心に)




「当たり前じゃん。柳生、ずっと友達でいようね」


そう言うと、
彼のメガネの奥の瞳は

迷子になった子供が母親を見つけた時のように輝いたのだった。


(柳生の為、柳生の為)
(ああ、胸が痛い)





………………・
いつも紳士な柳生に、
優しくしてあげたい。
そんな気持ちで、ヒロインさんは胸の痛みをないがしろにしようとします。

そんな話←