今まで何回も人を殺しかけてきた俺に、生きて欲しいと思う人間ができるとは思わなかった。


「ねえ、妖一」

「なんだ?」

「すーっごく眠い」

「一日中ベットにいて、いつでも寝れる奴がわざわざ俺といるときに寝るな」

「でも眠い」

「寝るな。俺、お前の寝顔嫌いなんだよ」

「えー」

本当は、お前のアホ面丸出しの幸せそうな寝顔、
大好きだよ。

けど、
お前が寝ると、
死んでしまったんじゃないか、
と嫌でも思ってしまうから


「でも妖一、ここんとこずーっとこの病室にいるじゃない。寝れないよ。」

「…………」

ここを離れる度にお前が生きてるかどうか怖くて、心臓に悪いんだよ。


「…妖一、無視はナシでしょ」

「うっせ」


「………私、退院できるのかなあ………」

「……いきなり何言ってんだ」

「だって、お医者さんも何も言ってくれないんだもん」

……あの糞バーコード、患者を元気付けることすらできねえのかよ。


もう先が長くないって、分かっていても…元気付けるくらい、できるだろ。


クソ。クソだ。本当にクソだ。


……クソが元気付けてやれねーから…
俺が元気付けるしかねーだろうがよ。


「…すぐ、退院、できるだろ」

「本当?」

「ああ」

「…でも、お医者さんは何回聞いても退院させてくんないし…」

「医者なんか信用するな。俺を信じろ」

「………」

「今までに、俺が嘘ついたことがあったか?」

「たくさんあったじゃない。いっつもハッタリかましてばっかりなの、知ってるんだよ?」

「……ケケケ」

「ふふ………」

今まで何回も人を殺しかけてきた俺に、生きて欲しいと思う人間ができるとは思わなかった。

今まで、アメフト以外のことは全て脅迫手帳で思い通りにしてきた俺に、叶わないことがあると思わなかった。

人を生かすためには、
誰の弱みを握ればいい?

神か?仏か?


んなもん、弱みの握りようがねえじゃねーか。


「…お前は、俺が死ぬまで俺と生きろ。」

「なにいきなり。私、プロポーズされてるみたい」

「みたいじゃなくて、そうなんだよ。絶対NFLに入って、すっげえ稼いでやっから、俺と生きろ」

「……………うん」

彼女はやはり、相当眠かったのか、それだけ答えると
うとうとと瞼をゆるめ、眠ってしまった。

「…………………」

俺は静かに、そいつの鼻辺りに手を近づけた。





(よかった、まだ生きてる)