「うっ…ぇぇん…」

夜中、人一人通らない。

橋の隅にしゃがみ込み、

泣いている、私がいた。


「うぇぇぇん……」

彼氏にフラれた。

ずっと一緒に居ような、

いつか、そんなこと言っててくれたのに

結婚しようぜ、

たった一週間前、そう言ってくれたのに

「うぅぅ…ひっく…」


幸せな思い出ばかりが思い出され、

私の涙は止まらない。



キキッ、バタン

車が止まって、ドアが開く音が聞こえた。


あ、やだ。

こんな顔、見られたくない。

反射的に顔を手で覆い隠す。

「………おい」

「!」

話し掛けられた…

「おい」

「…………」

私のことはほっといて、心配しなくていいのに、無視してていいのに

善良な人だね、でもそれはありがた迷惑、わからないの?

「おいってば、聞こえてんのか」

「…………」

私が無視してるんだから、いい加減気付いてよ、迷惑だって

「おい、…この橋、修理したいんだが。どいてくれないか」

「……ごめんなさいぃ…今どきます…」


なんだ、私の心配じゃなかったのか。


善良な人じゃなかった、ただの大工さんだだった。

頭がモヒカンなのが少し気になるけど。

馬鹿みたい私。もう死んじゃいたいな。


「…ん、お前、泣いてんのか」


はい、泣いてますよ。


「…大丈夫です」

「大丈夫には見えねーが」


そう言いながら、大工さんは修理を始めた。

「……っ、」

あれ、また泣けてきた。

恥ずかしいな、今初めて会った人の前で泣くなんて。

「…まあ、好きなだけ泣きゃいいが、そんな隅で泣くな」

「……?」

隅で泣くな?
どういう意味だろう


トントンカントントンカン、トントンカン


リズムの良い金づちの打つ音が聞こえる。


その音が、心地良く胸の奥に入り込んで響いて、なんだか落ち着いてきた。


「……彼氏にね、フラれたんです。」

トントンカン、トントンカン

「そうか」

トントンカン、トントンカン

「一週間前には、結婚しようって言ってくれたのに、結局女つくってどっか行きました。」

「そうか」

トントンカン、トントンカン

「……同情、しないんですね」

トントン………

彼は手を止めた。

「…してほしかったか」

「いいえ、してほしくないです、大抵の人は、しそうだから」

そう言うと、彼は微笑んだ。

「生憎、俺にそんな凄まじい経験は無いもんだからな、同情の仕様がねえ」

「そうですか」

トントンカン、トントンカン…

ああ、やっぱりこの人、善良な人だ。




私、もっと早くに、フラれた彼氏よりもっと早くに、こんな人に出会いたかった。


「…ん、やっぱり泣くか」

「え」

あれ?私、いつの間に泣いてたんだろ。

でも、なんか、アレだな。


もう、恥ずかしくない。


「もう一度言うがな、泣くのは好きなだけ泣けばいい、だが、隅では泣くな」

「…っ、うぅ…」

意味のわからないことを何回言われてもその場は動けない。


彼は、大工道具をしまい、私の横にしゃがみ込んだ(うんこ座り)。

修理、終わったのかな?


「なあ、地球は丸いだろう?」

「え?」

「そうさ、地球は丸い」

「…?」

「お前、地球が丸い理由、知ってるか?」

突然すぎる質問に、私が訳がわかんない、と言うふうにポカンとした顔をしていると、


その人は、ものすごく優しく、柔らかく笑って答えてくれた。







有心論
(それはな、誰も端っこで泣かないためだ)







…………………・
あとがき

こんなドリーマーな武蔵知らない


R/A/D/W/I/M/P/Sさんの曲「有心論」のタイトル、それと歌詞の一部を拝借しました。

武蔵はアメフトの練習が終わったあと、親父さんの大工仕事を手伝ってればいいさ