言ってしまえば、真逆の存在だった。

愛想が悪く物事に対して冷めやすい自分と、誰に対してもいつも笑顔で優しい本城さん。


だから、憧れた。尊敬した。好きに、なった。





授業をこっそり抜け出して屋上で読書をしていると、本城さんがやってきた。

「…あれ?本庄君だ。サボり?」

「…ああ」

高鳴る胸を必死に抑え、冷静を装う。

「そっかー珍し。」

言いながら本城さんはこちらに寄って来た。

「本城さんも、サボりは珍しいな」

「まあ、ね。何の本、読んでたの?」

本城さんの問いかけに、俺は本の表紙を見せた。

「『ライ麦畑でつかまえて』…」

「知っているのか?」

「いや…私、あまり本読まないから。」

じゃあ何故聞いたんだ、と思った。

「邪魔してごめんね?私あっち行く」

「あ…」

邪魔なんかじゃ、なかったのに。
制止の声をかけることも出来ず、本城さんの背中を見送ることしかできなかった。

少し離れたところで壁にもたれる本城さんに、思わず見惚れる。

空を見上げる彼女に、普段教室で、友人達に振りまいている表情は無かった。

驚く程無表情だったのだ。
しかし、普段より、数倍は笑顔に見えた。

「(…新しい一面を知ってしまった)」

また、もっと。

彼女のことが、好きになってしまった。と思った。




帰りに寄った本屋で、本城さんを見かけた。

「(…本、読まないって言ってたのに)」

小説の棚に向かって、必死に何かを探していた。

「…本城さん?」

「うひゃう!?」

なんだその叫び声。

「ほ、本庄君…!?どうしてここに」

「俺は、買いたい本があって。」

「そ、そっか」

「本城さんは?」

「あ、え、えーと…本探してて」

「そうなんだ。手伝おうか?ここの店、本探すの難しいから」

「えっ、や、」

「…あぁ、迷惑だった?」

ちょっと自分から話しかけすぎたかもしれない。

とっさに身を引く。

こんなに慌てる本城さんは見たことがない。相当困らせてしまったのだろう。

…どうしよう。

嫌われて、しまっただろうか。


すると、不安とは裏腹な返事が帰ってきた。


「…め、迷惑じゃない!…から、一緒に探してくれる?」

一気に胸を撫で下ろす。

「…もちろん。何の本探してるの?」

「………」

本のタイトルを聞くと、黙り込んでしまった。

「…タイトル、分からない?じゃあ、作者とか…ジャンルでも」

「ち、違うの…」

「?」

どういう意味だ。
本城さんは、申し訳なさそうに俯いたまま、怖ず怖ずと、人差し指を俺に向けた。

「…俺?」

「ち、違うの!決して本庄君が読んでたからとかじゃなくて、この本読んでるときの本庄君が、見たことない笑顔だったから私びっくりしちゃって…そんなに、その本おもしろいのかなあ、って!決して本庄君が読んでたからとかじゃなくて!」

「…?……あぁ、」

よく分からない内に真っ赤な顔で弁解だけされて、そこで一冊の本が俺の頭の中に浮かんだ。

「『ライ麦畑でつかまえて』?」

「…うん」

「………」

「…あの、本庄君?」

「っ…ご、ごめん。あの本は外国の本だから、あっち。」


とっさに、本城さんに背を向ける。

俺まで赤くなってしまった顔が、バレないように。

「…うんっ!」

なのに、すぐ俺の隣に並んで嬉しそうに笑う彼女の笑顔は、やはり教室で振りまく愛想の良いそれだったが、
空を見上げるように俺を見上げているようにも見えた。

それがなんだか、嬉しくて。

「…あれ?本庄君顔真っ赤」

「……………。本城さんの方が」

赤くなりっぱなしの顔を隠すことも忘れ、ただただ微笑むのだった。



おわり




………………・
タイトルのセンスが相変わらず皆無ですみません。