言ってしまえば、真逆の存在だった。
愛想が悪く物事に対して冷めやすい自分と、誰に対してもいつも笑顔で優しい本城さん。
だから、憧れた。尊敬した。好きに、なった。
*
授業をこっそり抜け出して屋上で読書をしていると、本城さんがやってきた。
「…あれ?本庄君だ。サボり?」
「…ああ」
高鳴る胸を必死に抑え、冷静を装う。
「そっかー珍し。」
言いながら本城さんはこちらに寄って来た。
「本城さんも、サボりは珍しいな」
「まあ、ね。何の本、読んでたの?」
本城さんの問いかけに、俺は本の表紙を見せた。
「『ライ麦畑でつかまえて』…」
「知っているのか?」
「いや…私、あまり本読まないから。」
じゃあ何故聞いたんだ、と思った。
「邪魔してごめんね?私あっち行く」
「あ…」
邪魔なんかじゃ、なかったのに。
制止の声をかけることも出来ず、本城さんの背中を見送ることしかできなかった。
少し離れたところで壁にもたれる本城さんに、思わず見惚れる。
空を見上げる彼女に、普段教室で、友人達に振りまいている表情は無かった。
驚く程無表情だったのだ。
しかし、普段より、数倍は笑顔に見えた。
「(…新しい一面を知ってしまった)」
また、もっと。
彼女のことが、好きになってしまった。と思った。
*
帰りに寄った本屋で、本城さんを見かけた。
「(…本、読まないって言ってたのに)」
小説の棚に向かって、必死に何かを探していた。
「…本城さん?」
「うひゃう!?」
なんだその叫び声。
「ほ、本庄君…!?どうしてここに」
「俺は、買いたい本があって。」
「そ、そっか」
「本城さんは?」
「あ、え、えーと…本探してて」
「そうなんだ。手伝おうか?ここの店、本探すの難しいから」
「えっ、や、」
「…あぁ、迷惑だった?」
ちょっと自分から話しかけすぎたかもしれない。
とっさに身を引く。
こんなに慌てる本城さんは見たことがない。相当困らせてしまったのだろう。
…どうしよう。
嫌われて、しまっただろうか。
すると、不安とは裏腹な返事が帰ってきた。
「…め、迷惑じゃない!…から、一緒に探してくれる?」
一気に胸を撫で下ろす。
「…もちろん。何の本探してるの?」
「………」
本のタイトルを聞くと、黙り込んでしまった。
「…タイトル、分からない?じゃあ、作者とか…ジャンルでも」
「ち、違うの…」
「?」
どういう意味だ。
本城さんは、申し訳なさそうに俯いたまま、怖ず怖ずと、人差し指を俺に向けた。
「…俺?」
「ち、違うの!決して本庄君が読んでたからとかじゃなくて、この本読んでるときの本庄君が、見たことない笑顔だったから私びっくりしちゃって…そんなに、その本おもしろいのかなあ、って!決して本庄君が読んでたからとかじゃなくて!」
「…?……あぁ、」
よく分からない内に真っ赤な顔で弁解だけされて、そこで一冊の本が俺の頭の中に浮かんだ。
「『ライ麦畑でつかまえて』?」
「…うん」
「………」
「…あの、本庄君?」
「っ…ご、ごめん。あの本は外国の本だから、あっち。」
とっさに、本城さんに背を向ける。
俺まで赤くなってしまった顔が、バレないように。
「…うんっ!」
なのに、すぐ俺の隣に並んで嬉しそうに笑う彼女の笑顔は、やはり教室で振りまく愛想の良いそれだったが、
空を見上げるように俺を見上げているようにも見えた。
それがなんだか、嬉しくて。
「…あれ?本庄君顔真っ赤」
「……………。本城さんの方が」
赤くなりっぱなしの顔を隠すことも忘れ、ただただ微笑むのだった。
おわり
………………・
タイトルのセンスが相変わらず皆無ですみません。