俺は走っていた。
「ハァッ…ハァッ」
もうすぐ、俺の子どもが産まれるからだ。
伶奈が陣痛を迎えたとき、俺は、どうしても外せない仕事をしていた。
苦渋の決断の上で、暇そうにしていた山崎を病院に向かわせた。
仕事をこれ以上にないくらい早く終わらせた俺は、屯所を飛び出した。
道中、こちらに向かって全力疾走している山崎が見えた。
「きょくちょっ、うま、産まれました!!」
「……まっまじでか!!!母子ともに」
「安全です!」
合言葉のように答えてくれた山崎にお礼の言葉を述べると、そのまま病院へと走った。
*
「あっ近藤さん!こっちこっち!」
真っ先に俺を見つけてくれた看護婦さんと、病室へ向かう。
「元気な赤ちゃんよ!」
「あっ、あのっ、男の子ですか?女の子ですか?」
「女の子!」
「おぉっ……」
その途端、不安がよぎる。
もし、我が子の顔が不運にも俺に似てしまうようなことがあったら。
我が子はきっと、とんでもなく悲惨な人生を歩むことになるんじゃないだろうか。
しかしそれは思い悩んでも仕方なのないことで、
気付けば病室の前に到着しており。
恐る恐る引き戸に手をかけるも、なかなか開ける決心ができない。
すると、病室から、「勲さん?」なんてひどく疲労した声が聞こえたものだから、「伶奈っ!?」と、こちらもひどく裏返った声を上げて戸を開けた。
病室には、お腹がすっきりして、やけに優しく笑う君。
その隣で、小さくも大きな欠伸をしている、何か。
「………。」
そろそろと近づいて、そっと覗く。
「お…おぉ…?」
眩しいくらいの白い衣服に包まれた、これまた人間なのか?なんて思ってしまう程の小さな小さな、シワシワの顔。手。体。
そっと手を伸ばすと、人差し指をがっしりと掴まれた。
「……すごい…」
「かわいいね」
「ああ…。産んでくれてありがとう。…傍にいたのが山崎ですまなかったな」
「ううん。急いで来てくれたんでしょう?ありがとう。」
「そんな…」
赤ん坊がぐずりだした声が聞こえる。
「わわっ、ほーら、パパでちゅよーっ。ほら、ママもっ」
「ふふっ」
一生懸命宥めていると、後から入ってきた、人の良さそうな看護婦さんが俺の後ろから赤ん坊を覗き込み、
「まーかわいらしい。パパそっくりね!」
なんて言うものだから、
俺の心は一気にもやもやしてしまうのだった。
「(…伶奈に似た、かわいい女の子に育ちますように!)」
かわいくて優しくて。素直に人を愛せる人にどうか。
………………・
元ネタは海援隊のお歌です。
父車内でたまたま聞いた曲なので、一部拝借だったり自分で考えて書いたり色々。曲名すら覚えていませんすみません