俺は走っていた。

「ハァッ…ハァッ」

もうすぐ、俺の子どもが産まれるからだ。





伶奈が陣痛を迎えたとき、俺は、どうしても外せない仕事をしていた。
苦渋の決断の上で、暇そうにしていた山崎を病院に向かわせた。

仕事をこれ以上にないくらい早く終わらせた俺は、屯所を飛び出した。

道中、こちらに向かって全力疾走している山崎が見えた。


「きょくちょっ、うま、産まれました!!」

「……まっまじでか!!!母子ともに」

「安全です!」

合言葉のように答えてくれた山崎にお礼の言葉を述べると、そのまま病院へと走った。



「あっ近藤さん!こっちこっち!」

真っ先に俺を見つけてくれた看護婦さんと、病室へ向かう。

「元気な赤ちゃんよ!」

「あっ、あのっ、男の子ですか?女の子ですか?」

「女の子!」

「おぉっ……」

その途端、不安がよぎる。

もし、我が子の顔が不運にも俺に似てしまうようなことがあったら。
我が子はきっと、とんでもなく悲惨な人生を歩むことになるんじゃないだろうか。

しかしそれは思い悩んでも仕方なのないことで、
気付けば病室の前に到着しており。

恐る恐る引き戸に手をかけるも、なかなか開ける決心ができない。

すると、病室から、「勲さん?」なんてひどく疲労した声が聞こえたものだから、「伶奈っ!?」と、こちらもひどく裏返った声を上げて戸を開けた。


病室には、お腹がすっきりして、やけに優しく笑う君。

その隣で、小さくも大きな欠伸をしている、何か。

「………。」

そろそろと近づいて、そっと覗く。


「お…おぉ…?」

眩しいくらいの白い衣服に包まれた、これまた人間なのか?なんて思ってしまう程の小さな小さな、シワシワの顔。手。体。

そっと手を伸ばすと、人差し指をがっしりと掴まれた。

「……すごい…」

「かわいいね」

「ああ…。産んでくれてありがとう。…傍にいたのが山崎ですまなかったな」

「ううん。急いで来てくれたんでしょう?ありがとう。」

「そんな…」

赤ん坊がぐずりだした声が聞こえる。

「わわっ、ほーら、パパでちゅよーっ。ほら、ママもっ」

「ふふっ」

一生懸命宥めていると、後から入ってきた、人の良さそうな看護婦さんが俺の後ろから赤ん坊を覗き込み、


「まーかわいらしい。パパそっくりね!」

なんて言うものだから、
俺の心は一気にもやもやしてしまうのだった。


「(…伶奈に似た、かわいい女の子に育ちますように!)」

かわいくて優しくて。素直に人を愛せる人にどうか。






………………・
元ネタは海援隊のお歌です。

父車内でたまたま聞いた曲なので、一部拝借だったり自分で考えて書いたり色々。曲名すら覚えていませんすみません




 


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