監察の仕事で、退と連絡が取れなくなったことがあった。

退はなんとか任務に成功したものの、血だらけになって屯所に戻っていた。

一晩中、私は退の枕元に座り、泣き続けた。

退はその翌日、私にプロポーズをした。

「『ただいま』って言える家が欲しくなった」





太陽の光が隙間からもれているカーテンを、一気に開ける。

「さーがーるっ。朝よ〜」

「………んぅ゛、」

夫婦になってから知った事実は、
退は低血圧だったこと。

「さがる〜、朝。朝よ。今日は休みなんでしょー?」

「休みなんだからさ…寝…」

「違う!違う違う!休みなんだから寝るんじゃなくて、休みなんだから、今日は1日私と遊ぶの!」

くるまってる布団の中の退の背中を、パタパタと叩く。

「…もぅ何、犬みたいなこと…」

途中まで言いかけて、睡眠に入ろうとする退。

「なんだよぉ退〜。コンポに大音量でハードロックかけちゃうぞ」

「……………」

「寝るなや」

本当に寝たから、本当にロックかけてやった。

「くれーないに〜 そーまぁった〜こーのオーレーを〜♪」

「う、うるさっ…」

「あ、起きた」

ゆっくり起き上がった退は、前にのめり込むような姿勢のままソファーに向かう。

「おはよー退〜」

「はよ…朝から紅は近所迷惑だよ、」

ソファーにどさりと座り込んだので、私もコンポを止めてから退の隣に座る。

「起きない退が悪い」

「はいはい…ごめんね」

すぐ適当にあしらうから、

「むぅー」

私はむくれて、退の二の腕に頭突きをして、そのままもたれかかる。

「ちょ…おもい」

押し退けようとしてくるけど、そんなので折れる私じゃあない。


何回も繰り返していると

「もぅ」

ポス、という音とともに、
膝枕をしてくれた。

「えへへ〜」

嬉しくて、私はそのまま仰向けになり、退に笑いかける。
退は、そんな私の頭を数回撫でた。

「…あのね、また、長期の仕事があるんだ」

ポツリ、退の口から告げられた。

退の目は相変わらず眠たそうだ。

「…そっかぁ」

「俺がアンタにプロポーズしたときの任務と同じくらい、下手したらそれ以上、難しい任務」

「そんなの任せられちゃうなんて、すごいじゃん退」

本当は、行って欲しくない。
また、あんな血だらけになって帰ってくると思うと…

考えるだけで、発狂しそう
けど、それを言わないのは。

「あのさぁ…」

「うん?」

「今度は、さ…」

少し目を閉じた退の頬に、
手を添える。

「……うん。分かってる」


…今度はちゃんと、
笑顔で『ただいま』って
言えるようにしておくよ。


すると退は安心したように、今日初めての笑顔を見せると「お腹がすいたなぁ」と、間延びした声を出した。

「ん…でも、もうちょっと、このまんまでいようよ?」

「…そうだね」

退の頬は、寝起きのせいか、まだポカポカしている。







低血圧
(その温度がある、幸せ)





………………・
お久しぶりです

地震発生から時間をかけてかけて完成させました。
駄文ではありますが、被災地の皆様に捧げます

予震がおさまらない中、こんなことを言うのも変かも知れませんが、一日も早い復興を、ただただ祈っています。

110406.


 


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