※魔王JR、鯨夢




思えば出会いのきっかけは、
こいつの自殺の依頼を受けたことだった。

初めて会ったときは、
なぜこのような健気な少女が
依頼主に恨めしがられているのかが全く分からなかった。

しかし俺は自殺屋だから、
いつも通りの段取りに入った。



  俺を、見ろ

そして、死ね





…しかし

その少女には、
俺の目を見ても、
一向に自殺する気配は無かった。

それどころか、こいつは俺に言った。

綺麗な両目ですね、と。

微笑みながら。





俺は、それ以外に、こいつを自殺をさせる術を持っていないから、殺さないことにした。

…それが、きっかけだった。

「鯨!おはよう!」

「…おはよう。」

「今日の天気は晴れだって!お布団干すから早く出て!」

「…もう少し…。」

「何言ってんの!昨日は依頼も無かったし、全然疲れて無いでしょーが!」

「…………分かった。」

身寄りが無かったらしい彼女は、今は俺の家にちゃっかり住み着いている。

「…………」

なぜこいつは自殺しなかったのだろうか。

そんなことを思ったこともあったが、その問題はすぐに解決した。

こいつは、家族も、もともと少なかった友達も全員、殺されていた。

つまり、もう、常日頃から自殺願望の塊ははち切れそうな程膨れ上がっていたのだ。

それでも、こいつはその自殺願望に耐え、今まで生きてきた。

そのような人間を、俺が自殺させられる訳が無かったのだ。

「…伶奈」

「ん?なにー?」

「…お前は、強いな。」

頼れる人間がいなくなっても、一人で今まで生きてきた彼女は、強く、美しかった。

「…そうかな?きっと鯨の方が、強いよ?」

「そんなことはない」

「そんなことあるよ!だって、鯨は…今まで、その両目で」

「………?」

「っその両目で人を自殺させて、それで」

「…大丈夫、だ」

「……」

「俺は、俺の目のせいで人を自殺させることに、苦痛を覚えたことが無いから」

「…そうじゃ、なくて」

「?」

「鯨は…誰か、どんなに大切な人にも、両目を見て話してもらえないじゃない…私ならきっと悲しくて泣いちゃうよ」

「…それも、大丈夫だ

だってお前が、いるじゃないか」

「…え」

「お前が、俺のこの両目を見ても、生きている…それだけで充分だ」

「…そっか」

彼女は優しく微笑んだ。

…今、もし俺が両目を見せたとしても、彼女は自殺しないのだろうか。

「…鯨!なら、私も大丈夫だよ!」

「…む?」

「私には今、鯨がいるんだもん!」

幸せそうな彼女を見て、確信した。

ああ、もし俺が今この両目を見せたなら、きっと彼女は死ぬだろう。


喜んでいいのだろうか。

微妙だな。



片目だけで愛を見た

(彼女の笑顔)






…………………・
あとがき

私にしては珍しく、一週間くらい諦めずに作りました。


つーかこいつら朝っぱらからなんて重い話をしているんだ


見直している途中で気付いたこと↓

「今日の天気は晴れだって!お布団干すから早く出て!」

なんてリズムの良いセリフ





 


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