生まれて初めて、音楽機器を買った。
ものすごく今更だけど、やっぱり電車通学の僕にとって、電車の中にいる間は退屈なんだ。
iPodは高くて、とても買える代物じゃあなかったから、とりあえず店員さんに薦められた、…名前は忘れたけど、とにかく便利そうな音楽機器を買った。
…そして、そこで問題発生。
や、だってまさか、音楽機器に音楽を取り込むために、パソコンが必要だなんて…。
我が家にはパソコンが無い。
いや、あることにはあるけど、お父さんから何回も教えてもらっても使い方が分からず、僕は放置しているんだ。
どうしようどうしようと困っていたとき、ヒル魔さんが話し掛けてくれた。
「俺が音楽入れてやるからウチ来い」
*
…という訳で、僕は今電車の中にいる。
極端に電車に弱い僕が当然のように乗れるのは、ヒル魔さんの家が泥門高校の近くにあるらしいからだ。
祝日ということもあってか、電車はなかなかの混みようだった。
それでも僕は気にせず通学のときにいつもモン太と座る席に座った。
ふと隣に座っていた男性から、ひどいタバコの臭いがした。
臭すぎて、息がしずらい。
そういえばヒル魔さんはすごく不良ぽいのにタバコとか吸わないよな。いや当たり前か。スポーツマンだし。一応。
十文字君達も今じゃすっかりスポーツマンで…黒木君と戸叶くんなんてムサシさんが注意しただけでよく禁煙できたな
(…うっ…!)
目の前に、フリフリなピンクの服を着たオバサンが立った。
そのオバサンからは、多量の香水の臭いがした。
本来なら、気分が悪くなってしまいそうな臭いだが、横のタバコ臭さと合体し、気分が悪くなるどころの臭いじゃなくなっていた。
(うう…なんだこの状況…!た、助けてー!)
助けて。
その言葉が浮かんだ途端、同時にヒル魔さんの顔も浮かんだ。
(うん…ヒル魔さんなら、こんな状況、簡単に破っちゃいそうだ。)
性格からして、絶対助けてくれなさそうだけど。
プシュー…
『泥門前駅ー泥門前駅ー』
「!」
降りなきゃ!
(助かった…!)
急いで立ち上がり、香水オバサンの横を通り過ぎる。
ありえない香水の匂いがした。
電車を降りると、空気のおいしさに感動した。
「はー…!」
「なーに突っ立ってんだ」
「!?」
ホームのイスに、ヒル魔さんが腰掛けていた。
「ヒル魔さん!?どうしてここに」
「お前が音楽入れてくれって頼んだんだろーがよ」
いや頼んだ覚えは無いんですが。でもこの際そんなことはどうでも良い。
「そ、そうじゃなくて…なんで迎えに来てくれたのかなーっなんて……」
するとヒル魔さんは一瞬固まったあと、僕を置いて歩きだした。
「え、待っ、」
僕は慌てて追いかける。
「…別に意味なんてねーよ」
「…?」
かつんかつん
ヒル魔さんのリズムの良い足音が階段に差し掛かる。
「…ヒル魔さん」
ヒル魔さんの足が止まる。
「なんだ」
「…さっき、電車の中にものすごくタバコ臭い人が僕の横に座ってたんです」
「……?」
「それで、それだけで充分臭いのに、目の前にものすごい香水つけてるオバサンが立って、2つの臭さが合体して、もう本当に助けてって感じになって」
「…何言ってんだお前。そんなにお喋りだっけか」
「…う」
本当だ…なんで僕こんなこと話してんだろ
「…つまり、テメエは何が言いてえんだ」
「…え…、え、えっと、ヒル魔さんなら、こんな状況、簡単に打破しそうだな…って」
「…打破するも何も、俺なら席を移動するな」
「…あ、そっか……」
その手もあったのか
「…まあ、他の糞共なら無視するが、お前なら助けてやるよ」
「え…?」
何の話……?
「『もう本当に助けてって感じになった』って今言っただろーが」
「…あ、はい」
「糞猿とか糞バカとかがお前みたいな状況になっても無視しとくが、セナなら助けてやるよ」
「…え゛えっ?」
「なんだその声」
「い、いや別に…」
ヒル魔さんは1番助けてくれなさそうなのに!
てゆーか今僕のことセナって呼んだ…?
うわ、なんだろこれ、なんか恥ずかしい!
ヒル魔さん今日どうしちゃったんだろ!?
あ、てゆーか、アメフト以外でヒル魔さんと会うのって初めてかも…!
「おい、もう行くぞ」
「あ、はい!」
僕はヒル魔さんの後を追いかけた。
悪魔と恋する3日前
(自分の気持ちに気付く2時間前の話)
…………………・
あとがき
一部実話です。タバコ兄さんと香水オバサンに板挟みされた辺り実話です←
ヒル魔はツンデレ?しっかしガンガンセナにアピールしてますね!
ヒル魔がパソコンしてんのに、パソコンを覗き込んでくるセナを想像するだけで萌えますやばいゲロ吐きそう←
セナかわいいんだよ!
ヒル魔宅は私の計算では泥門高校の近くにあると思います多分。
…あれ、これホモにしなくても書けた…