千葉の夏は。暑い。意外と。


「アイス買ってこよ」

夜にそう思い立った俺は、母親に一言つげると外に出た。


さすがに夜はすこし涼しいが、まだ半袖でも余裕で過ごせる。

俺の長ったらしい髪の毛を一つにまとめてダンゴにすると、涼しさはより増した。


海沿いにあるコンビニに入る。

いらっしゃいませー、という、店員の眠そうな声に誘われ、思わず欠伸をひとつ。

さあ、アイスアイス………

……。

「……なんだアレ」

アイスのクーラーボックスの目の前で立ち尽くす女が1人。

少し近寄ってみると
「ガリガリ君…ガリガリ君…」
と呟いていた。

きもっ。

近寄りたくないな。

でも、コンビニはこの辺にしかないし、アイスは食べたいし、この女は当分この状態でいそうだし。

それに。

「ガリガリ君…ガリガリ君…」

だんだん、これが面白くなってきた。

「クスクス、どうしたの?」

「!?」

笑いながら声をかけると、驚いたように振り返ったその女の子。

あ、わりと可愛い。
髪は俺の方がキレイだけど。

「え、え…なんですか?」

独特なイントネーションで返事をされた。

「いや、アイス買いに来たんだけど、ずっと、君がガリガリ君って呟いてるから、さ。気になって」

「ああ、それはそれはすいません」

あまり照れるような素振りもなく、アイスコーナーから一歩引いたその女の子。

「いや、全然いいんだよ。君はガリガリ君買わなくていいの?」

「うーん…いいです、お金足りんくて。」

けど諦めきれへんくて立ってたんですよー、

ってヘラリと笑う女の子。

ガリガリ君買えないくらいしかお金持ってないって。どんな生活送ってるんだよ。

「いくら足りないの?」

「え?1円」

「あー…なるほどね」

そりゃ、諦めきれないわ。
俺はサイフから1円玉を出すと、その女の子に差し出した。

「え?」

「1円くらいなら、いいよ。どうぞ」

するとその女の子は、1円をまるでダイアモンドでも見るかのような、キラキラとした瞳で見つめた。

「ほんまに!?ええの!?」

「うん。どうぞ。クスクス」

「ありがとうお姉さん!」

「っ!?」

そっか、お姉さんか…

確かに今は髪をダンゴにまとめて、うなじがきっと良い感じに出てる。

髪をくくると、女の子に間違えられる頻度が高くなるんだ。

…まあ、いっか。

「…クスクス。いいのよ。買っておいで」

どうせ今晩限りだ、お姉さんだと思わせておこう。

「うん!」



嬉しそうにガリガリ君をレジに渡している女の子のすぐ後ろに、俺もバニラアイスを持って並んだ。

「お姉さん選ぶん早いなあ」

「まあ、ね。あなたはこの辺の子?不思議な喋り方ね」

意識してオネェ言葉で喋る。

「あ、うん。最近こっちに来たばっかやねん。兵庫から来ました!」

「そうなんだ。クスクス…どう?千葉は」

俺のレジの番もいつの間にやら終わり、2人そろってコンビニを出た。

「うーん、まだあんまり…あ、お姉さん帰り道こっちなん?」

「ええ。話の続き聞かせて。まだあまり馴染めない?」

「あ、えーとね、友達も少しずつできて、楽しいんやけど、」

「?」

「さみしい、かなあ…」

「……そう。」

「お姉さんは?」

「私?」

「うん。なんか、孤独っぽい(笑)」

少しニヤリと笑う女の子。

「クスクス、面白いこと言うのね。
孤独だとかは感じないわよ、良い仲間もいるしね。
弟が少し離れたところにいるから、
それが少しさみしいと感じるときはあるけれど…」

「ふーん、そっかあ。」

仲間、かぁ。

つぶやくように喋ったその女の子の言葉は、夜の空に吸い込まれた。


そのとき、遠くの暗闇の方で声が聞こえた

「おーい、」

あれ、この声…

「バネ?」「春風だ」

…え?

「…あれ?お姉さん今なんて」

「…いや、なんでもないよ。あの人、知り合い?」

「あ、うん。居候させてもろてるねん」

「………そっか、」

これは、あまりバレない方が良いのかな、なんて少しこの先のことを考えて。

「あ、じゃあ、私こっちだから。また、今度ね。」

「あ、うん、1円ありがとう!」

手をヒラヒラと振り、私、もとい俺は暗闇へと姿を消した。



「もう、夜に突然いなくなるなよ、こえーだろ。」

「ごめんごめん、急にガリガリ君が食べたなって」

「んだよそれ…あれ、お前さっきまで誰かと一緒にいなかったか?」

「あ、うん。さっき別れたんやけど、1円くれて…名前も聞き忘れたし、もう会わんやろなあ……ん?」

「?なんだよ」

「いや…」


(また、今度ね)


「…??」


………………
あとがき
久々に書いてみた
ミステリアス亮さん

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