俺が叩き起こす予定だったのに、叩き起こされた。


「朝やで!!!!!!」

「うわあああ!!!」





「お前は、もうちょっとマシな起こし方を知らねえのか!?」

朝から響く俺の怒鳴り声。

弟の春や、犬2匹までも、いつの間にやらすっかり仲良くなっていた(多分弟達が起きてから今までの半時間だけで)ソイツは、
見事にチビ達を味方につけた。

「兄ちゃんが起きねえのが悪いんだろ」

「ワンワンッ」

まるで俺を否定するようなタイミングで鳴く犬。

「〜〜〜〜っ!!」

畜生!

ヤケになって朝飯を掻き込み、さっさと歯を磨いて髪をセットする。


「伶奈ちゃんおはよう」

「あ、お父さんおはようございます」

「ん、なんだ春風、朝からブサイクな顔して。モテねえぞ」

「なんで朝から俺だけこんな風当たり悪いんだよ!もういい行ってきます!」


玄関へ向かうと、伶奈が追ってきた。

「待って春風、今日何時に帰ってくんの」

「は…なんで?」

「帰って来たら、この辺のこと案内してもらいたいんやけど」

「春に頼めよ」

「春くんに頼んで、公園ばっかりだけとか案内されたらかなわんからな」

「あー…」

そりゃそうか。
うちは両親は共働きだし、母親に至っては俺が起きたころにはもう仕事に出ている。
俺が案内するしかねえのか…

「わかったよ」

今日は部活は早退するか。

「わーありがとー。ほなら行ってらっしゃい。私2学期から登校やから、早よ学校行きたいわ」

「せいぜい楽しみにしとけ。いい学校だから」

行ってきます、と言い残して俺は家を出た。





時は過ぎ、早速部活。
部長に早退する旨を伝えた。

「えっ、バネさん今日早退すんの」

「ああ、前に言っただろ、居候が来るって。ソイツに今日、この辺の地理教えることになったんだ」

「本城伶奈ちゃん、だっけ?バネ」

「ああ。」

「ふーん…」

何か考えているような剣太郎。やがて何か思いついたように笑顔を見せると、とんでもない要求をしてきた。

「皆で会いに行ってもいい!?」

「…は!?」

「クスクス…いいねそれ」

「俺はメンドイからパスするのね」

「えっなんで樹っちゃん。行こうよ」

「皆で行ってきてください。残りの部員は俺に任せて」

「いや待て!!俺が許可してないって!いきなり男だらけで押し掛けたら驚くだろ!」

「じゃあ、一人だけ選んで連れてってよ!」

「……」

一人だけ…?

「待てよ、今から消去法で選ぶ」

まず樹っちゃんはおいといて。

剣太郎は…下心が丸見え。アウト。

ダビデは…伶奈と同級生だし、いいかな。あ、でもコイツ人見知りだった。アウト。

亮は、絶対第一印象暗い奴って思われるだろうから、アウト。

首藤は…首藤も、下心丸見えだな。アウト。

てことは…

「……サエ」

うん、こいつは大抵人当たりが良いし、間違っても女子を傷つけるようなことはいわないだろう。
それに、男前だし。無駄に

「え〜っ、サエさんなの!?」

「悪いね剣太郎」


さ、行こっか、と早速仕切り出したソイツの横に並ぶ。

「俺、早退するって言ったんだけど。」

まだユニフォームにすら着替えてないぞ?

「一回打ち始めたら、途中でやめられなくなるからさ。もう行こう」


すんません葵部長、部活休みます。



「ただいま」

「あ、おかえりー…見て春風、さんまさんむっちゃおもろい」

こちらを見ずに俺を呼ぶ伶奈。さんま御殿の再放送に夢中で、まだサエの存在には気付いていないようだ。

「お邪魔します」

サエが無駄に爽やかな声で挨拶すると、伶奈は勢いよく振り返った。

怪しそうな人物(例えば亮とか)ではないことを認識すると、得意のヘラリとした笑顔を見せた。

「いらっしゃい。全然気付かんかったわ、びっくりしたー。そこ座って座って。あ、お茶飲む?」

「お気遣いなく」

「わー、よぉ出来た子やねえ」

裸足の伶奈はペタペタと冷蔵庫に向かい、お茶とか言ってたくせに、棒アイスを三本だした。

「イチゴバニラチョコ!どれがいい?」

「お先にどうぞ?」

「わ、ありがとう。ほならチョコもらう」

「あ、じゃあバニラ貰ってもいい?」

「おぉ」

3人で棒アイスにかぶりつく。

伶奈が口を開いた。

「……………で、春風」

「ん?」

「このバニラアイスを召し上がっている男前は誰?」

「今更かよ」

「ハハッ、初めまして。佐伯虎次郎です。」

「あ、どうも初めまして。本城伶奈です。中2です」

「あ、一つ下なんだ」

「あ、そうなんですか?すんませんタメ語、」

「ああ、いいよタメ語で。」

「そう?」

「サエはこっちに越してきてからのダチで、部活も一緒なんだ」

「ん…春風、部活やっとんの?」

「テニス部」

「え、じゃあ部活休んだん?ごめんなあ。佐伯くんも」

「いいぜ別に。基本的に部活が休みの日無いから、この辺案内するには仕方ねえよ」

「そうだね。本城さんにも早く、この辺に慣れて欲しいしね」

「…あー…、ありがとうな」

じゃあ早速、と、俺たちは暑い日差しのもとへ出た。



スーパー、コンビニ、学校、海。
それから樹っちゃん家の食堂の前を通って、再び家に着いた。

中学校に行ったときは、「テニス部見たい」なんて騒ぎだしたけど、今日はまだいいだろ。と宥めて帰って来た。

案内しているうちに伶奈はサエともすぐ打ち解け、
伶奈ちゃん、サエさん、なんて呼び合っていた。


「じゃあまたね伶奈ちゃん。バネ、また明日」

「ばいばいサエさん」

「おう、また明日な」




家に帰ってからサエの印象について聞くと、
真顔ですぐ
「あの人むっちゃウケる」
と返された。

「…ウケたのか」

あの男前のどこに笑いの要素があるのだろうか。

「いい人なんやろうけど、そのオーラが出過ぎとってキモい」

「……おお」

思わず感嘆の声を上げてしまった。千葉のロミオも、関西人にかかればキモいとまで言われるのか

“本城さんにも早く、この辺に慣れて欲しいしね。”

どうやらサエのそのセリフの時点で、何かを感じていたらしい。

「やって、出会って数十分で、あんなん言われると思わんやん!あなたは私の何を知っているの!?って激しく思った」

出会ってすぐ初対面の奴と打ち解けられるお前には言われたくないだろうな。

でもそれは言わないでおく。

「まあ…確かにな。じゃあ、サエのこと嫌いなのか?」

「うーん…嫌いではないかな。おもろいし。ていうか、あの人嫌ったら敵がむっちゃできそうやない?」

「よく分かってんじゃねーか。アイツは別名、千葉のロミオだからな。」

「何それ規模でかすぎるやろ」


今度は他のダチも紹介してやるよ、全員男だけど。

そう言うと、伶奈は嬉しそうに笑った。

「やった、友達。」





………………・
どんどん六角レギュラー出す予定です。
サエさんキモいとか、私そんなこと思ったことないからね!(泣)←

バネさんのご家族て、以上で良かったんだっけ
公式の名前とか無いですよね…すごい不安
勝手に共働きの設定つけたけども。
弟春の名前は、私の好きな小説からとりました。