千葉の空港に、
一人の少女が降り立った。
「あー、関東のええ匂い。」
*
「春風、そろそろ着くって連絡あったわよ」
「…そう」
夏休みも間近になった今日、
我が黒羽家に、新しい家族が増えることになった。
そいつは親父の昔の友人の娘で、
今、その家は家庭崩壊の状況になっているらしい。
とりあえず夫婦は別居することになったらしいんだが、
その娘が、どちらの親について行くか問われた際、
どっちも嫌だと言って聞かなかったらしい。
そんで、その結果が、我が家に迎え入れることになったらしい…。
まあ、お金的な問題は、ちゃんと請求できるらしいから心配ないが。
「……はぁ」
まだ小さかった頃、一度だけ遊んだことがあるらしいけれど…
や、普通に記憶に無えよ。
ましてや、家庭が複雑な、同世代の女の子なんて。
「仲良くなれる自信ねぇし……!」
ピンポーン
うわあ、来た。
「こーんにーちはー」
…ん?
ノリ、軽くね?
「春風、迎え入れてあげて!」
「…お、おう」
母親に頼まれ、玄関に向かう。
ガチャッ
「どうも」
とりあえず一瞥する。
「あ、どうも〜。え、春風くん?」
ヘラリと笑った女は、本当に軽いノリで聞いてきた
「そうっすけど」
「うーわ、久しぶり!でっかくなったなあ!」
おぉ、関西弁。
ていうかこいつ、俺のこと覚えてんだ。
予想以上にペラペラ喋るそいつに、俺の緊張も少しほぐれた。
「立ち話もなんだし、入れよ」
俺も、得意の笑顔を見せて、中へ促した。
「あ、すいませんねえ」
*
「まあ、伶奈ちゃん!?かわいくなったわねえ!」
異常にテンションの高い母親。
「かわいくなったでしょう〜」
相変わらず軽いノリのそいつ。
「今日はもう疲れたでしょう?お風呂沸かせたらまた呼ぶから、お部屋で休んどきなさい。荷物も届いてるわよ。あと、どれくらいの間になるか分からないけど、遠慮なくお母さんって呼んでいいからね?」
「分かった、ありがとうお母さん!私のことも呼び捨てでええからね母さん!」
「きゃっ早速!春風、伶奈をお部屋まで案内してちょうだい」
「おぅ」
2人で二階へ向かう。
「お母さん、ええ人やね」
「そりゃ良かった」
「なあなあ、春風くんのことも、お兄ちゃんって呼んだ方がええ?」
「ぶっ」
「どないしたん、お兄ちゃ〜ん♪」
ふざけて俺の腕に絡まってこようとしたそいつを、必死に払いのける。
「春風でいいから!ていうかお前、年下だっけ?」
一応、あなたのことは覚えてますよ、みたいな雰囲気で聞いた。
「一歳下やで」
「へぇ。あ、ここがお前の部屋」
「おお、ええ部屋。」
「そりゃ良かった。荷物整理すんなら手伝うけど」
「あ、ええよ大丈夫。」
「そう。じゃ」
「うん、ありがとうな春風、これからよろしく」
「…おぅ」
適応能力の早さ、半端無いなこいつ。
こうして、俺達の生活は幕を開けた。
「おい伶奈、風呂…って、こいつもう寝てやがる」
(やっぱ、疲れたよな…うし、明日叩きおこしゃーいいか)