千葉の空港に、
一人の少女が降り立った。


「あー、関東のええ匂い。」





「春風、そろそろ着くって連絡あったわよ」

「…そう」

夏休みも間近になった今日、
我が黒羽家に、新しい家族が増えることになった。

そいつは親父の昔の友人の娘で、
今、その家は家庭崩壊の状況になっているらしい。

とりあえず夫婦は別居することになったらしいんだが、
その娘が、どちらの親について行くか問われた際、
どっちも嫌だと言って聞かなかったらしい。

そんで、その結果が、我が家に迎え入れることになったらしい…。

まあ、お金的な問題は、ちゃんと請求できるらしいから心配ないが。

「……はぁ」

まだ小さかった頃、一度だけ遊んだことがあるらしいけれど…

や、普通に記憶に無えよ。

ましてや、家庭が複雑な、同世代の女の子なんて。



「仲良くなれる自信ねぇし……!」


ピンポーン

うわあ、来た。

「こーんにーちはー」

…ん?
ノリ、軽くね?


「春風、迎え入れてあげて!」

「…お、おう」

母親に頼まれ、玄関に向かう。


ガチャッ

「どうも」

とりあえず一瞥する。

「あ、どうも〜。え、春風くん?」

ヘラリと笑った女は、本当に軽いノリで聞いてきた

「そうっすけど」

「うーわ、久しぶり!でっかくなったなあ!」

おぉ、関西弁。

ていうかこいつ、俺のこと覚えてんだ。

予想以上にペラペラ喋るそいつに、俺の緊張も少しほぐれた。

「立ち話もなんだし、入れよ」

俺も、得意の笑顔を見せて、中へ促した。

「あ、すいませんねえ」






「まあ、伶奈ちゃん!?かわいくなったわねえ!」

異常にテンションの高い母親。

「かわいくなったでしょう〜」

相変わらず軽いノリのそいつ。

「今日はもう疲れたでしょう?お風呂沸かせたらまた呼ぶから、お部屋で休んどきなさい。荷物も届いてるわよ。あと、どれくらいの間になるか分からないけど、遠慮なくお母さんって呼んでいいからね?」

「分かった、ありがとうお母さん!私のことも呼び捨てでええからね母さん!」

「きゃっ早速!春風、伶奈をお部屋まで案内してちょうだい」

「おぅ」

2人で二階へ向かう。

「お母さん、ええ人やね」

「そりゃ良かった」

「なあなあ、春風くんのことも、お兄ちゃんって呼んだ方がええ?」

「ぶっ」

「どないしたん、お兄ちゃ〜ん♪」

ふざけて俺の腕に絡まってこようとしたそいつを、必死に払いのける。


「春風でいいから!ていうかお前、年下だっけ?」

一応、あなたのことは覚えてますよ、みたいな雰囲気で聞いた。

「一歳下やで」

「へぇ。あ、ここがお前の部屋」

「おお、ええ部屋。」

「そりゃ良かった。荷物整理すんなら手伝うけど」

「あ、ええよ大丈夫。」

「そう。じゃ」

「うん、ありがとうな春風、これからよろしく」

「…おぅ」

適応能力の早さ、半端無いなこいつ。


こうして、俺達の生活は幕を開けた。







「おい伶奈、風呂…って、こいつもう寝てやがる」

(やっぱ、疲れたよな…うし、明日叩きおこしゃーいいか)