#ac2_total# 小説2 | ナノ

 

今度こそだ。



『ベビードール』



写真、貰ったアクセサリー、香水、お揃いのカップ、エトセトラ。
分別なんてそっちのけで、勢いよくゴミ袋に詰め込んだ。
ありきたりすぎる想い出の品々。

可愛いと褒められたブルーのワンピース、普通に可愛いし手放すには惜しいけど。
決別せんとばかりに半透明のごみ袋に突っ込む。


「ちょっ、それ捨てるなら頂戴よ」
「駄目。絶っっ対に捨てる」

ほんの僅かにでもアイツがよぎるものは全て葬らないと気が済まない。
親友が制止するのも聞かずに、私は息巻いた。

陶器のカップと香水がぶつかって、中で耳障りな音を立てる。
そう言えばその香水も貰ったはいいけど、どちらかと言えば苦手な匂いだった。
いかにも、な匂い。


……そういう女が良かったんだろうか。
機能性にも携帯性にも欠ける形をしたピンクのボトルの甘ったるい香水。
いかにも、な甘い匂いを漂わせたそういう女だったんだろうか。
今度の女は。

半透明の袋の中でも目障りな程主張するピンク。
覆い隠すようにブルーのワンピースを上に被せて、ゴミ袋の口を固く固く、間違っても二度と開かないようにきつく結んだ。


発覚した時。
彼がやべって顔をしたのが遠目でも分かった。
そんな顔を見たら認めたようなものだ。
むしろ涼しい顔で堂々としてくれたら、まだ。


それから一週間経って、彼からの連絡はない。
ブン太のことだ。
何て謝ればいいか分からないとか、怒られるのが怖いとか、理由はそんなとこだろう。
私が愛想を尽かすことは決してないと、思っているに違いない。

大体初犯でもない。
酔った勢いでとか、つい断れなくてとか、これまでも何度かあった。
ここらが潮時だと思う。本当は気づいていた。
彼が変われないことも、それを許せないまま変われない私自身にも。


この一週間は相当堪えた。
うっかり何度も彼を許しそうになったし、自分から連絡してしまいそうになった。

耐えて耐えてようやく七日目。
華金なんて誰が言い出したのか知らないが、事件が起きたその日と同じ曜日がまた巡って。
帰り道にハッピーアワーの呼び込みを見かけて、ようやく一週間経ったのかと気付いた。


「……これ、捨ててくる」


私がそう言って立ち上がった時、着信を知らせるiPhone。
ディスプレイに光るのは、一週間前まで私の彼氏だった人だ。


「出てあげたら」
「やだ。出ない」


ここまで長かった。
ようやく、今度こそ浮気性の彼を断ち切って新しい恋に向かえそうなのに。

今度こそ、今度こそのはずなのに。


着信が止んで、続けて光るLINEの通知。
ポップアップに上がるのは、「ごめんなさい」の一言。


きっと彼なりに考えたんだろう。
それでも私が思いを巡らせた時間に比べたら大したことはないだろうけど。


…結局私は、ブン太のことをその辺の男Aとしては到底思えない。

テーブルの上にあったハサミで勢いよくゴミ袋の口を切り、自分で乱雑に突っ込んだブルーのワンピースに袖を通した。
うん、ぴったりだ。
肩幅も、着丈も、私を華奢に、女の子に見せてくれる。
捨てるのには勿体ないほど。


ついでにゴミ袋の中から取り出した香水を手首にワンプッシュして、私は玄関を飛び出した。


きっと彼は変わらないだろう。
私も変わらない。
でも今はそれでいい。


玄関を出る直前、「しょうもない人たちですね」とでも言いたげに親友が溜息をついた。


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