#ac2_total# 小説2 | ナノ

 

だって一番脱がしづらい。




『浴衣を着てこなかった理由』




このまま帰るの?と名前に言われて、本当はもっとカッコつけたかった。
つけたかったのに、口から出たのは自分でも思う程に情けない台詞だった。

「え、だって帰んないでどうすんの」


夏は嫌いだ。
じとっと貼り付く前髪もTシャツも、まるで恋をしろとでも言うかのような脅迫じみた夜の雰囲気も。

祭りに花火に。
どうして夏なんだろう。
オレンジ色の屋台の中で色鮮やかな浴衣に囲まれて、視界がうるさい。
押しつけがましく遠くから花火の音が聞こえて、夏はいつまで続くんだろうと思った。


夏祭りも終盤、歩き疲れて屋台から少し離れたベンチに二人で座る。
名前から微かにいつもと違う香りがした。


「丸井は、帰りたい?」

そう言って俺を覗き込んでくる名前の匂いを、もっと近くで嗅ぎたいと思った。
微かな匂いの違いさえ気づいてしまう仲になってしまったことに、その時初めて気づく。


「いや、そりゃ帰りたくないけど」

帰りたくないし、帰したくない。
できるなら。

そう言えば今日初めてちゃんと目を合わせたけど、名前はどこか嬉しそうで。
ショートボブの黒髪が、夜風に吹かれてまたさっきの匂いがする。

白い首筋が夏の夜に映えて、こいつが浴衣を着たら似合うだろうと思った。
と同時に、着られたら困るとも思った。

惚れたもん負けってよく言うけど、こいつにハマったら最期な気がする。
できればこの気持ちが、一過性のものであって欲しい。
秋になったら涼しい顔して、ああそんなこともあったなって。


「行こ」


名前が俺の手を引いて、本当は逆がよかったと情けないことを思った。










「んっ…あ、」

慣れてるとまで言わないけど、別に初めてじゃない。
なのに、触り方これで合ってんのか不安になる。

左手で髪を撫でながら、白い首筋に噛みつく。
さっきの匂いはシャワーで流れたらしい。
俺もさっき使ったボディーソープ。
今度は二人とも同じ匂いがして、これはこれでいいなと思う。

こんなキモいこと思うのはこいつにだけだ。


下着のホックを外したとき、へへっと恥ずかし気に笑う声がして、慌ててベッドライトを点けた。


「やっ、なんで」
「恥ずかしがるとこ見たい」
「変態」

心なしかいつもより顔が赤くて、別にいつも可愛いけど男としてはこっちの名前の方がいい。
そのまま胸を撫でて中心を口に含む。


「あっ、んっ……ぁ」


大学に入って、いつの間にか仲良くなった。
俺は悔しいくらいすぐ名前を好きになったけど、こいつは多分俺を好きじゃないと思う。
俺もモテる方だし、そういうのは何となく分かる。

だから、夏祭りに行こうと誘われた時は正直、正直。


頭上から甘い声が降ってきて、俺が鳴かせてると思うと馬鹿みたいに興奮する。

好きだと思う気持ち、
これ以上好きになりたくない気持ち、
ただの性欲と一緒にしたくないと思いながらも止まらない自分。


「はぁっ、んっ……あっあ」
「腰上げて、脱がすから」
「んっ」


直接触ると、生理現象なのかもしれないけど普通に濡れてて。
指の腹を滑らすと軽く水音。


「…めっちゃ濡れてんじゃん」

別に自信ないわけじゃないし。あるわけでもないけど。
でもそれなりに経験あるし。

だけど何回ヤっても、濡れてるのを確かめた瞬間ってやっぱり安心する。
ダサいんかな俺。


「んっ、やっ…あっ」

好きな女が俺の指1本でここまで乱れるのを見てると、抑えつけられてる下半身がそろそろ痛い。

はやる気持ちをグッと抑え、クリトリスをなぞる。
さっきよりも一段階高い声を上げて、あー。どの女も好きだよな。ここ。

グリグリっと少し強く押しつぶすと、脚をピンと伸ばして気持ちよさそうに喘ぐ。
俺は名前以外の女にもしたことあるのに、名前がこの姿を他の男に見せたことあると思うとモヤっとした。
思った以上に惚れてるらしい。


「ま、るい…あっ、んんっ、イっちゃうかも…」


火照った顔して涙目で見上げてくる名前。
これで我慢できる男なんてもう男じゃない。


ヤったら、それっきりで終わるんじゃないか。
今後どんな顔して会えばいいんだろうかとか。
あわよくば、俺のこと。


そんなこと考える余裕もなくて、ゴムもつけずに挿入した。


「…くっ………せま」
「あっ、ん」

熱くて狭くて、夏みたいだ。
出口のない感情の中で堂々巡りになりながら、無我夢中で腰を振る。

絡みついてくる内壁が、俺を早々に掻き立ててきて。実際結構焦る。

本当はできるだけ繋がっていたいけど、早く早くと急かされるようで。
たまに奥を突いたタイミングでキュウっと締め付けられるのが、どうにも慣れない。


「ちょっ、あんま締めたらすぐ出る……っ」
「ごめ、……んっ、久しぶりだからっ……はぁっ…」

久しぶりって、俺の前は誰としたのか。
やけにラブホの誘い方が手馴れてるとか。
浴衣を着てこなかった理由とか。


正しい答えを知りたいけど怖い。


俺のリズムに揺られて喘ぐ名前を見て、当たり前に興奮して。
もう二度とこの表情を見られないかもしれないと思って、目に焼き付けた。


「あっああああっ、あっ………っ」


奥を突いたタイミングで中が収縮して、途切れ途切れになる名前の声。
ドクンと下半身が脈打ちそうになる。

俺が先じゃなくて良かった。
ボーっとする脳内で少し思う。


「……気持ちよかった?」


恍惚とした表情で見上げてくる名前を見て、もう恋愛感情でもただの性欲でもどちらでもいい。
俺も吐き出したくて、思い切り腰を打ち付ける。


早く秋になれと思った。


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