#ac2_total# 小説2 | ナノ

 

いつだって、手のひらで転がされる。



『後悔と幸福』



「ちょっとどこ触ってんの」
「んー。胸」

ムードとか作ったりするのすごく器用なくせして、今日はそういうのどうでもいいらしい。

「ちょっ、いきなりすぎるってば!」
「じゃあ何か甘い言葉でも言えばいいんか」
「も、バカ!」

違うの。雅治のこと嫌いとかじゃないし、むしろちょっと私おかしいんじゃないかなってくらい好きだし。猫背な姿勢とか、私に触れるこのしなやかな指とか、どうしようもなくキュンとなっちゃうんだけど。

でも私がトイレから戻って部屋に入るなり後ろから抱きしめるようにして服に手突っ込んでくるなんて、ねえ、ねえ。そこでその気にさせるだけのサービス精神とか身につけてもいいんじゃないの。

「わっ、雅治…っ」

立ったままの姿勢で頑なに抵抗する私を後ろから抑えつけて、うなじにキスしてくる雅治。彼の匂いがして、背中がじわじわ。
それでも私は侵入してくるその手を拒み続ける。だって、今日そんなつもりじゃなかったから下着とかもかわいくないし。よりによって脱がしにくいスキニーとか履いてきちゃったし。
ひたすらまさぐってくる雅治に対してそんなこと思いながら攻防戦を繰り広げてると、急に身体を反転させられて。

後ろには壁、前にはドンと高圧的に壁に手をつく雅治。



「……なあ、部屋って言ったらコレじゃろ?」



ニヤリと笑いながら耳元で囁かれた言葉、雅治の匂い、眩暈のするような色気。
悔しいけど私は、たった一言ですっかりその気になってしまった。








ベッドに移動して、頬に手が添えられて、顔を上げさせられて、キス。
舌が入り込んできて、息が熱くなって、襟元から滑り込んでくる指先に期待して。
意識しなくても身体が雅治を求めた。

「あっ、ん…っ」

ブラの中を這いまわる手。存在を確かめるような触り方にじれったさを覚えて、色白の首に腕を回して吐息を漏らした。そうだよわざとだよ、だってもっと触ってほしいなんて思ってるの。
そんな私をゆっくり寝かせて「焦りなさんな」なんてわざと耳元で言う彼。ああ掌握されてる。いつだって。さっきまであんなに渋ってたのに、自分でも思うよ。


「ん、やあぁっ……」
「なん、結構ノリノリじゃな」

うるさいうるさい、余計なこと言わないで。野暮なこと考えずに、今はその爪までミリ単位で感じたい。
そんなこと考えてたら雅治が乳首を口に含んだから、すっかり女の子な声が喉から溢れ出した。

「んっ、んっ…ふ…」
「これ、好きじゃろ?」
「やあっ、しゃべ、ないでっ…」

急に甘噛みされて、つい腰が浮く。だけどそんなこと恥じらう暇もなく身体の内側からぞくぞくぞくぞく。ああ変になっちゃうって多分こういうことだ。

すっかり欲情しきったところで下半身に手が伸ばされて。慣れた手つきでズボンとパンツを脱がされて、クチュリなんて水音にたまらなく興奮した。

「うわあ、どろどろ。どうすんじゃこれ」
「あっああっ、あ、ん…っ」

スケベじゃなーなんて寒いこと言ってそこを撫でるように触ってくる雅治。
もっと触ってほしいのに、じらされる感覚もまた癖になりそうで。雅治とエッチしてると私こんなにマゾだったっけなんて結構思う。きっと男の子にこの気持ちは分からない。


「あぁっ……」

じらしつつ遠慮がちに一本入ってきた指に、とことん反応しちゃって。指の角度とか向きとか、見えてないけど感じ取れる。
内壁を少し引っ掻くようにしてくるその人差し指?中指?分かんない多分中指、が、私の中に締め付けられてる。

「今日どうしたんじゃ、すごい脚ビクビクしとるぜよ」
「あっ、やあ…ん、んっ…」

分かんない分かんない、自分でも分かんないよ。
でも雅治が欲しくって熱くって、頭がぼんやりするのに目はちかちかしてて。早く早く。もっと、もっと、気持ちよくしてほしい。



「ね、雅治っ、もう欲しいよぉ…っ」



「……あんなに嫌そうな顔してたくせに」


そんなこと言いながら、ビニールを破く音。あ、ポッケに仕込んでたのかコンドーム。
もうそんなのなくってもいいから、入れてほしいなんて。でも、気分でこういうことしちゃうくせになんだかんだきちんと避妊するような彼が好きだ。

途端に、やらしく収縮した私の中にグニュリと押し込まれる感覚。待ち焦がれた快感に身体がゾワッと粟立つ。


「あああっあ、…っっ」
「はあっ、名前、きついんじゃけど…っ」
「や、あっあ…、はあっ」

うわあ、だめだ気持ちいい。部屋に入ってからここまで何分だろう。おそらく長針は半分程度しか回ってなくて、その間ずっと欲しかったのが今私と一つになってる。

始めはあんなに女の子ぶってムードとか主張してたくせに、こんなの。全部全部雅治の思い通り。
きっと後で雅治は何回もからかってきて、それに恥ずかしくなって。
分かってる。だけど後悔するからこそ今しか感じられないことをやめられるわけなくって、どうやったらこんな限られた瞬間正気に戻ることができるんだろう。
全部終わってベッドに倒れこんで目が覚めたとき、私は何を思うだろう。


「ん、っはあ…っ、ああっ、雅治っ…」
「……力、抜きんしゃい…っ」

私は男の人にしては華奢なその肩にしがみついて快感の波に身を委ね、背中をしならせた。
雅治も私がイったのを見計らって、動物みたいに腰を打ち付けてくる。


「あっああ、…はっ、あ…ん」
「…………っ、やばい出る」
「んっ、…あっ…はあ、いいよ、も、私も」


雅治が顔を近づけて口づけてきて、お互いの息が口内でくぐもる。イく前に彼がいつもするキス。

彼に掌握されっぱなしで、きっと後で後悔とかするだろうけど。
でも。ぼんやり霞む視界、愛おしそうに目を細める彼を見て、こうやってセックスで仲を深め合えるごくごくありふれた日々を過ごせる恋人でいられることを幸福に思った。

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