そのメールを朝になってから読んで、急いであなたに電話をかけた。
『咀嚼できない感情』
二年生のとき幸村と同じクラスになって。
最初はこれがみんなにモテモテの幸村くんかあなんて思ったけど、私がみんなの内に入るのも、そんなに時間は要さなかった。
教室で私が落とした学生証を拾ってくれて、俺と誕生日一緒だねなんて、ニコリ。
紺色の緩いウェーブの髪と透き通るような声、柔和な微笑み。
私はそのとき図々しくも恋に落ちる音を聞いてしまった。たったそれだけで好きになってしまうなんて、やっぱり恋愛は馬鹿じゃなきゃできない。
それからは目で追って、些細なことで一喜一憂したりする毎日。
席が隣になってアドレスを交換した日は、馬鹿みたいに家でスキップした。
だけど幸村を好きになればなるほど、この恋の可能性を妙に実感させられて。
ついには好きなんて言えないまま卒業式が迫ってる。
三年になってクラスが離れてからはほとんど接点がなくて何度も諦めようと思ったけど、思った以上に私は幸村のことが好きだったらしい。
恋の始まりに理由なんかないけど、終わりには理由が要る。もう無理だって確実に諦められるような、絶望的な理由が。
だから、今日こうして。
To/幸村 精市
Title/なし
誕生日おめでとう。ずっと好きでした。
3月5日は幸村と私の唯一の共通点。
私がこの日に生まれてなかったらこんなに誰かを好きになることはなかった。
きっと誕生日が同じことなんて幸村はもう忘れてるだろうけど、それでもいい。
何かきっかけがないとメールなんてできないから、今日言ってしまおうと思って。
正直、数多くの女子からのデコメールやら何やらに埋もれてしまえばいいと思う。
期待なんて微塵もしてない。きっと幸村は丁寧に、返事をくれる。ごめんって。
ただこのまま、何もせずに中学生活が終わるよりはずっといい。
こうでもして理由を作らないと、私は幸村を諦めきれないから。
それが無機質な文字だったとしても、吐き出したらスッキリして。
いずれこの恋のことを懐かしむ時が来るんだろうかなんて思いながら"送信完了"の画面を見て、海よりも深く泣いた。
――どれくらい眠っただろう。
枕元で携帯が鳴って、浅い眠りから覚める。
あ、これメールじゃなくて電話だ。しかも中学生の私たちがよくやるような、ある人物特定の着信メロディ。
…直接告白できなかった私に、出る勇気なんてあるわけがない。
私の携帯からこのメロディが鳴る日が来るとは思わなかった。
ねえ何て言って電話に出たらいい?
ああ伝えてしまったんだなんて枕に顔を伏せたら、最近CMに魅せられて買ったシャンプーの香り。
あのCMタレントみたいに綺麗になりたい。隣を歩けるくらい可愛くなりたい。
私はそんなこと思いながら呼び出し音を無視してギュッと目を閉じて、インフルエンザの小学生みたいに長い眠りについた。
最中にどこか遠くでまた電話が鳴った気がしたけど、それはもう夢の中だったと思う。
From/幸村 精市
Title/Re:
電話出ろよ(笑)
付き合ってもいいよ。知らないと思うけど、好きになったのは俺の方が先なんだ。
それと、苗字も誕生日おめでとう。