#ac2_total# 小説2 | ナノ

 

その嘘は、本当ですか。



『迷いなんて蹴っ飛ばして』



時が経つのは本当に早くって、まだきちんとした敬語も話せず、冠婚葬祭のマナーもろくに知らない私がこの春大学生になった。

中学から通ってた立海の附属システムに甘えて大学まで来てしまったせいで、特に学びたいことがあってここに通ってるわけでもないし、周りの友達も知ってる顔ぶれがちらほら。
だから春とは言っても大したドキドキとか希望があるわけじゃなくって、倦怠感溢れるってほどでもないけど刺激が足りない毎日。



仁王とは結構気が合う。っていうか一番仲の良い男子だ。
中学から何回か同じクラスになったりして仲良くなって、偶然大学も同じ学部に進学した。

今もこうやって仁王のワンルームの部屋でお互い何も喋らず好きなことしてるけど、流れる沈黙は決して不快だったり窮屈だったりしないし、こんなに人の部屋でくつろげるなんてなかなかないと思う。


「えっ、中学の卒業アルバムじゃん。仁王こんなの卒業式の帰り道に捨てそうなのに」
「…俺はそんな冷酷じゃないんじゃけど」


ふいに段ボールの中に3年以上前に貰った卒業アルバムを見つけて、私は手に取った。
開いてみたら、うわ懐かしい。そういやコイツ中学の頃から銀だったな。丸井も赤いしどうなってんのテニス部。
私たちが在籍してた3年B組の授業風景なんかが収められたページには、明らかに黒板を見てない私と仁王と丸井が並んで座ってる。
そういえばこの席楽しかったなあ。


「ね、この席覚えてる?この頃私たちホントにガキだったよね」
「ん?…ああ覚えとるよ。一学期じゃろ、それ。つうか私たちってなんじゃ俺を入れなさんな」
「えっ見てよこの仁王。みんなカメラ意識して授業聞いてるふりしてるのにあんた爆睡してるじゃん。中二かって」


ほら、なんて言って仁王引っ張って見開きの一ページを見せる。
切れ長の目がそれを見つめてほんとじゃって笑った。
あっ仁王香水変えたなあ。ふいにこんなに近づいて、そんなこと思う。


少し懐かしそうに4年前の私たちを眺める仁王。
猫っ毛なその髪を間近で眺めてると、案外時が経つのは遅いのかもしれないなんて思う。だってこの綺麗な髪は、こんなにも変わらない。


だけど思わずその髪に手を伸ばそうとしたら、急に手首をガッシリ掴まれた。
大学入ってダイエットしなきゃなんて焦ってたけど、こうやって仁王に掴まれると私の手首がすごく華奢に感じるのは何でだろう。



「……なあ、今ならガキじゃなくて男として見てくれるんか」



そんなこと言う仁王にわざとらしく瞬きした。私たちの関係が変わることなんてお互い望んでないと思ってたから。
だけどそう言った仁王はやけに余裕たっぷりで、初めて会った時からこの時を計算して待ってたみたいな顔して笑う。


「な、名前」


あ、この声絶対わざとだ。いつもより少し低くて、いつもより大分甘い声。分かってやってるんだろうなあどうせ。


「………に、仁王って私のこと…好きなの?」
「好き」

うわ、即答。まじで。
お互い一切そのことに触れないで大学まで友達やってきたけど、ここまで積み上げたものをためらいなく崩せる仁王が時々分からない。
私が一体、どんな気持ちで、今まで。


ためらってたら、冷たい床に押し倒された。熱い仁王の視線から逃れるように、その冷たさに身を任せる私。


「好いとうよ」

ああ、その嘘は本当ですか。









「あっ、ん、………ん」
「ん。ここ?」

私のナカでその長い指が曲げられる度、私の口から大袈裟なくらい声が漏れてく。
仁王のことが未だに若干信じられない私がもじもじしてる内に、お気に入りのTシャツも七分丈のズボンも、ついには下着まで簡単に脱がされてしまった。

「名前、感じすぎじゃて」
「やっ……、ん、あっあ…」

ホントに自分なのかと思うほどそこは濡れてる。自分で分かるもん。
指が出し入れされたり、クリトリスぐりぐりってされたりする度に背中が震えて、下腹部に甘い痺れ。
それを舐めるように見下ろしてるのはずっと友達だった人で。
目が合ったら熱っぽい眼差しでいやらしく笑った。ずくん。こんな表情知らない。

その顔に何故か泣きそうになって、そしたらあやすみたいにキスされる。
そのキスは嘘なんかに到底思えない優しさを含んでて、ああ多分もう信じるしかない。信じることは騙されること?

「ああっっ、や、だめっ…」

気づいたらとんでもないとこに仁王が顔うずめて、今まで体験したことのない感覚にのけぞった。
だめだよそんなとこ、汚いよ、やだ。なんてのは嘘でホントはもっとしてほしかったり。
その感覚がじれったくて、例えて言うなら私たちの長い友達期間を思った。

クリトリスを強く吸われたら私の中に閃光が走る走る走る。呆気なく呼吸を乱されて、さざ波みたいにやってくる快感。


「名前」

………その声、絶対わざとだよなあ。
酔いそうになるその声を、彼を、拒絶する術を私は知らない。

「ん…」

熱そのものがゆっくり私に入り込んできて、私を組み敷く仁王が少し眉をしかめた。


快感は人を素直にさせると思う。

「あ……っ、ん、仁王っ……好き」

「…知っとる」


ほらこうやって、散々押し込めてた愛しさがだだ漏れになる。
言い慣れない台詞には迫力がない。
ホントはずっと好きだったと思う。
言ってみたらいいのになんて無責任な言葉、いつも自分に投げかけてた。
中3のとき丸井にドキドキしたり、高校で他の人と付き合ったり、結構遠回りしたけど、なんだかんだ仁王に触れたかった。嘘つきで、意外に寂しがりで脆い仁王に。
この気持ちは気まぐれなんかじゃない。


「あ、…ん、…っあ」
「……、くっ」

仁王が乾いた骨っぽい声を漏らして、私の中を泳ぐみたいに動く。
お腹の底に彼を感じてキュンとした。


おでこや頬に触れられてキスされる。外を走る車の音とか散歩中の犬の鳴き声とか、雑音をすべて消すようなキス。
唇を離して、少し照れたようにする仁王と目が合って、今日泊まってかん?なんて。



…何回かに一度、あなたを諦めようと思った。
そう思ってたのに、その視線が私をどれだけ期待させるか分かってる?



ねえまだ私の中に巣食うこんな迷い、今すぐあなたが蹴っ飛ばして。

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