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たぶん彼は、魔法を使う。



『あさっての予定』



周助のことは心から大好きで、彼の性格を知った上で、なるべく男の子がいる遊びの場には参加してこなかったなんて我ながらよくできた彼女だと思う。

だけど私たちは男女共学の学生で、異性と関わらないなんてそんなのは到底無理な話なんだよね。

それでも彼氏のためならって思ってたけど、周助は部活中女の子に囲まれてチヤホヤされてるのに私ばっか、なんてああもやもやもやもや。
ありきたりな嫉妬や不満が渦巻いて、私の脳味噌の中を泳ぐ。くだらないなあ。



今週の日曜はどうしても行きたいところがあって、まあそれはみんなのよく知る某人気遊園地。
メンバーは私含めてクラスメイト男女2対2となれば、周助はいい顔しないと思う。


別に付き合いに不満があるわけじゃなくて、勿論浮気なんてわけじゃない。

でも最近新しいアトラクションのできたそれは、この機会逃したらいつ行けるか分からないもん。
周助は部活が忙しいし、それは周助が悪いわけじゃなくて勿論テニスしてる姿も大好きなんだけど、私だって待ってるだけじゃなくて遊びたい。
14歳の本音はこんなもので、愛なんて語るには何もかもが足りないなと思う。


だから今日正直に言おう。
日曜日クラスで遊園地行ってくるね。男の子もいるけど大丈夫家に着いたらちゃんと電話するからって。
私の彼氏はちょっと嫉妬深くて心配性だけど、理解はある方…だと思う。
きっと気をつけてねって言ってくれる大丈夫。



日の暮れかかった帰り道。
空はピンクと紫のグラデーションが綺麗で、だけど私の隣でその空を見上げる横顔はもっと綺麗だと思った。
そういえば付き合ってそろそろ1年になるなあ。

付き合いたてだって今だって、変わらず周助は私をドキドキさせる。
ほらそうやってペットボトル飲む仕草だって様になるのは周助くらい。


「どうしたの?欲しい?」
「あっ、ううん。空綺麗だね」

そう言われて慌てて視線そらしたら、周助がそっと手繋いできて優しく笑った。どくん。


ふいにあさって乗るであろうジェットコースターを思う。周助といる時のこの高鳴りは、それに似てる。
もう夏をはらんだ5月の風が、わたしの首もとを通り抜けた。





「あっねえ名前。そういえばあさっての日曜日、僕の弟の学校と練習試合があるんだけど。よかったら観に来てくれないかな」




沈む夕陽を見つめて、よし言おうとしたその時。
…もう笑っちゃう。

たまに、この人は鋭そうな振りして実は何も知らないんじゃないかと思う。
手帳がデートの予定で埋まらないほんの少しの寂しさも、コートを囲む黄色い声援に虫酸が走ることも、こうやって周助の指先に触れるだけで左右される私の休日の予定なんかも。


ね、名前が来てくれたら頑張れそうだよなんて言うその笑顔は、私の考えをぐにゃりと曲げる魔法みたいで、とても愛しいものに思う。
たまには遊びたい!なんて大分調子づいたこと思ってた癖に、結局私の気持ちなんてその魔法に惹き付けられて離れることはない。


たまには一日中友達とバカみたい騒いだり、下ネタで笑ったりして、新しいジェットコースターだって乗りたくて乗りたくてたまらなかったけど。

仕方ないなあ、大切な日曜日をあなたに使ってあげるよ。

私はドタキャンに使う理由を考えながら、ふわっと近づいてきた彼に目を閉じた。

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