触無愛癒




これ、とってくれよ土方、視界を塞ぐ何時もと変わらぬ布に手を宛て漏らされたそれに酷く胸が軋む音が何処かで響いた


学校の担任である銀八が古くなった原付きのバイクに乗り深夜帰宅途中の大通りで事故に遭い即死したのは一年程前の出来事だ。

あまりに突然の不幸に学校中が響めき、特に腹心していたのであろうクラスメイトである新八、神楽は暫く銀八の還りを待つように新しい担任を拒み彼の使っていたものには一切触れさせもしなかった、それは密かに彼の恋人であった高杉も同様、無論、高杉は騒ぐ事もなければ葬式に来る筈もない、否、人前で涙を流すわけもない。


肉親も連絡が着かず、殆ど人の来なかった小さな会場で行われた葬式の日、激しくどんよりとした曇天が雨を打ち鳴らしていた、予想以上に重い足取りで会場を出て直ぐ傘もささずに立ちすくむ高杉の姿があった、それは指定の制服を正しく着用した正装で嗚咽一つ零さずに雨に紛れて泣き叫んでいた、
そんな高杉を引き寄せるように腕の力加減も解らぬまま抱きしめ「好き、だ」焦りのみえる表情で淡く消えてしまいそうでいて重い声で吐いたこの状況にはあまりに不似合いな、それ。

そこで初めて高杉の口から聞かされたのは銀八が恋人だということ、今でもそれは変わらないということ、そして尚も残酷な彼なりの優しさからきたのであろう身体だけなら構わない、ということだった、その瞬間辺りは夕暮れ迫る空気と雲に隠れた輝かぬ星が輪廻をつくり静まりかえったそれに浮つくような気持ちで真の感情など雨音に紛れさせ返事の代わりに不慣れにキスを落とした、その唇は酷く冷たかったのを覚えている


高杉と初めて身体を重ねたのもその夜だった、

会場から少し離れた場所にある無人のラブホテル、汚れた白い床、代えてあるかも疑いたくなるような風呂、恋人同士が情事をする場所とは思えないような場所だが生徒と教師である彼等、代わりである自分には相応しいのかもしれない、とそのまま押し倒した身体の服を迷いしか知らない指で脱がせる、白い艶やかな彼の肌に点々と遺る付けた相手などとうに嫌なほど解りきっている吸い跡、布で高杉の目を塞いだが彼はそれに対しては何も言わなかった、そして不覚にも高杉が以前漏らした銀八の癖等を記憶から引っ張り出し似ても似つかないそれに必死に近付こうとしていることに気づかされる、

自慰に限りなく近いこれに名前をつけるならば慰めだと無言で呟いた、無論高杉からそうしてくれと頼まれた訳ではないのだが

それからというもの、学校では常に通常の会話を交わすが二人きりになると決まってセックスをするようになった、高杉は瞼の裏に焼き付いた人間を想い幾度となく土方と行為に及んだ。

ある日、何時ものように情事中途切れる息と精神の中突然蘇った記憶を掴む、
去年の夏、授業水泳に高杉はけだるいと理由を付け一度も参加しなかった、今思えば独占欲の強い銀八が恋人の裸同然を人前に曝すはずがない
そして少し遅れて思い出したのが体操服の半ズボンを履いて半裸に夏に合わない濃い紫色のパーカーを羽織った高杉の首筋にはっきりとあった歯型。

銀八は噛み癖があったのだろうか、それも遠くからでも解るほどの強いそれが。


深くのめり込み過ぎた記憶から我に返った身体は自分のものとは思えないほど居心地が悪く深く息を吸い込み、肺に溜めそのままゆっくりと歯を立て高杉の首筋噛む、八重歯が刺さりぷつり、と鉄の味が口内に淡く広がり何に欲情したのか深く歯を食い込ませた、

耳に響き、残るのは
痛みによる悲痛な叫びではなく艶やかさを持った切ない
銀、八という音


そう、綺麗な音


そして今に至る、
これ、と目隠しを解けと示すあの時と同じ彼なりのそれに応えることなど出来る筈も無く、あの見透かすような碧眼と眼が合い抱き合えば握り締めた気持ちを隠すことなど不可能、高杉にそれをぶつけることになるだろう、無論自分はそんなことが出来るほど強くはない、ただ、最後の我が儘として絡めた指先に力を込めた。



(癒える筈のない、愛してる)


End


----------------------------ツイッターのほうでお世話になっている湊人様から土高、または銀高←土、とリクエストしていただいたものです、本当にすみません遅筆にもほどがある…!!
尊敬する文章書きさんにこのような駄文を…すみませんあとこれ全然リクエストにそれてませんよねすみません←こんな奴ですがこれからも宜しくお願いいたします…!