時越想(相互記念)





お前は何故何時も俺を置いてゆく?視線を下に向け決して目を合わせようとしないまま口元だけが切なげに無理に笑っていた。


耳障りな程騒ぎ立てていた夏の象徴である蝉が最期を惜しむかの様に鳴きだした晩夏の午後三時半の屋上、高杉を呼び出しある程度距離を置き向かい合っている。

爽やかとまではいえないがどこか懐かしい緑の匂いを銀時は肺に溜め込みそして吐き出し、それの語尾に付け足す様に蚊の鳴く声で逃げる様に別れようと零した

嫌いになった訳ではない、好きな気持ちは変わらない、伝えたい言い訳にも似た気持ちは喉元に詰まり音にはならず、それを見兼ねた高杉は理由一つ聞く事もなく聞こうともせず、分かったと何時もと変わらぬ無表情で言いその場を後にした。

高杉の足音が遠くなったのを確認すると糸を切られた操り人形の様にガタリと腰が抜けその場に座り込む、手には湿っているというより濡れているのが相応しい程汗をかいていた。

これでいい、これでいいんだと自分に言い聞かせる

自分で考え別れを切り出した為他人に何かを言われ仕組まれた訳ではないのだが後悔と不安が堪えなかったのだ無論、高杉を好きだという気持ちは変わらなかった。だが好きになればなるほど、どこかで高杉に飲み込まれる様な恐怖を覚えた。

これが本能というものか、(だとしたら俺はとんだ臆病者だ)高杉と一緒にいてはならない、逃げなければならないような気がして仕方なかった、そして今高杉を投げ捨てるかの様に別れを切り出したのだ。

矛盾にも似た行き処のない気持ちに唇を鉄の味がするまで噛み締め「しょっぱい」と呟いた。

あの日から高杉は学校に殆ど登校しなくなった、否正しくは停学中とのことだが妙に気にかかり今更どんな顔をして会えばいいのかという理性は脳裏の隅に追い払うと、小さなアパートのインターホンを必要以上に力を込めて押した

高杉がドアを開けるまでの数十秒間が妙に重く現実味を感じさせない。

あの日同様に汗に濡れた手に目を移すと鈍い音を立ててドアがゆっくりと開いた

虚ろな瞳を銀時に向けた元々綺麗好きな高杉が学校に行っていないというのに赤黒いシミの付く汚れた学生服のままの姿はそれ程放心状態であったことを表していた(その理由は、多分)顎を少し上げ軽く右に揺らすそれは中に入れと許可を出す。
何も言わずに高杉の後をついて行くと以前来た時と変わらず窓際の壁にぴったりと添えられたベッド、隣にある埃の積もるギター、映らなくなったアナログテレビ、あまり日の当たらない部屋だというのに緩く閉められたカーテン、強いていうなら変わったものはごみ箱に入れず部屋に散乱する煙草の空き箱くらいだろう。
続く沈黙を埋める様にその空き箱のひとつを穴が空くほど見ていると高杉がなぁ、と不意に口を開き何処か遠くを見る様な目でそのまま話続けた。「お前は何故いつも俺をおいて行く」「お前は俺からいつも逃げやがる」その言葉に悔やむ様な感情を覚えた、遥か昔にも銀時は高杉から逃げ出したことがあるような気がした。だがそれははっきりとわかるものではなく胸の辺りに靄が渦巻く様な穴が空くような気持ち悪い虚しさと自己嫌悪であった。その気持ちのなかにあった小さな光はもう二度高杉を離さぬ様に、迷わぬ様に手を引けるように、大丈夫だと言えるように生まれ変わったのではないかと自惚れるほど。

きっと前世と思われる頃から
銀時は高杉から求められていたのだ、だが支えきれないと逃げていただけだった

あの頃は気づけなかったのだ一番の贅沢で一番簡単なただ思い抱きしめるそれだけでよかったということに

「好きだよ、高杉」包む様に抱きしめそう囁くと高杉の細い腕がしがみつく様に銀時の背中に回った。だからもう泣くなと目には見えぬその涙をそっと舌先で拭った。


(時を越えてやっと気づいた)(もう離れんなよ、銀時。)


End

----------------------------文月椎兎様、この度は相互ありがとうございました//別れてはまた付き合う…というリクエストを文月椎兎様からいただいたのですが告白し直すようなシーンがなく他にも分かり辛いものが多々あり申し訳ありません´`これからも管理人共々よろしくお願いいたします*^^