永遠に埋まることのない歳の差が、二人の距離をまた一歩、遠ざけてしまう。触れ合った掌の温度は少しも違わないのに。どうして、対等な関係にはなれないのだろうか。



悩み尽きぬ午前零時。熱めのシャワーに身を曝して、バーナビーは重い溜め息を零した。母親譲りのハニーブロンドは、水に濡れるとカールが緩む。それ故、鏡に反射した横顔がやけに弱々しくも幼く見えて。バーナビーは舌打ちも荒く、真新しいタオルで自らの視界を遮った。

――俺を信じろ。

反芻した声はどこまでも優しかった。掌、肩、それこそ身体中のあちこちに、虎徹と触れ合った時の痺れるような感覚が残っているのが、憎らしい。ずっと独りで生きてきたバーナビーにとって、唐突に現れた"パートナー"虎徹の存在は、あまりにも大きすぎるものだった。どれだけ素気なく遠ざけても、追い掛けてきて抱きしめてくれる優しい人。けれど、彼にとっての自分は、信じるに値する存在ではなかったのだ。弱くて不安定で、誰かに支えてもらわないと満足に生きることすらできない、子供同然の――大人。

「どうして……」

脆い部分も沢山見せた。虎徹がいたからこそ気丈に振る舞えた場面もあった。支えてもらったその分だけ、支えてあげたいと思う。対等な場所に立って同じ目線で、他人ばかり大切にする虎徹を愛していたい。そう願っていたのに。
裸眼の視界が涙でぼやけて、世界に孤独な靄がかかった。噛み締めた唇から零れた嗚咽が、バスルームの壁に反響する。「自分に任せて欲しい」と伝えた。「僕を信じて下さい」。はっきりとそう言った筈だ。意を決して繋いだ心が、全く違った形で彼の心を捕らえていたのだとしたら、ここから先、答えを見付ける術はない。心配と不安によって動かされる感情を、愛と呼ぶのは不可能だ。

「どうして――――っ!」

愛されたい。守りたい。強くありたい。頼りたい。支え合いたい。……気が狂いそうな程に愛している、だから、紡いだ言葉を信じて欲しい。湯水の如く溢れ出した感情が熱い涙に姿を変えて、白い頬を滑り落ちていく。今のままでは、許すことなんて到底、出来る筈もない。彼が自分を"庇護すべき者"だと認識している、その限り……彼の手を、再び掴むことはない。

夜の闇に彩られた空に、赤い月が輝いている。勝率が0%だとしても、命を賭けて闘わなければならない時が来たのだ。シャワールームを出たバーナビーは、テーブルの上に投げ置かれたタスキの破片に手を伸ばして、その断片にそっと口付けを落とした。今は繋ぐこての出来ない信頼という名の絆を、慈しむように。そして、本当は"許している"自分に――気付かないふりをする為に。


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