『学園祭の王子様』攻略対象外キャラクター×広瀬 静 企画サイト参加作品 広瀬 静はオレと同じ2年1組のクラスメイトだった。 そんな目立つタイプではないけど、いつだって朗らかにクラスの中で微笑んでいるイメージだ。 「学園祭、一緒に頑張ろうね」 「あ、あぁ」 そんなたいして接点もなかったのに、いきなり跡部ら主催の合同学園祭で、彼女がうちの学校の運営委員として参加していた。 山吹中はもんじゃ焼き主体の模擬店をやる事に決定。 また主催者の意向により、うちには四天宝寺中から白石さんが参加する事になった。 「なんか、あそこだけ。派手だねぇ」 「うんうん」 ダブルスの喜多が人差し指を立てながら言うと、相棒の新渡米さんも指を立てながら頷きあっている。 「ちぇっ。また目立つのがきちまったなぁ」 「ドンマイだ、南」 こちらもダブルスペアである南部長と、東方さんがお互いを慰めあっている。 亜久津さんは当然ながら興味無しって感じだし、壇君はそんな亜久津さんを宥めている。 そこだけ無駄に華やいでいた。 模擬店について話をしているのだろう。 千石さんがもんじゃ焼きの説明を身振り手振りで話しているのを、脇から広瀬がフォローを入れている模様。 白石さんは軽く腕を組んで、包帯の巻かれた左手を顎に当てながら、たまに質問したり頷き返しながら笑っている。 千石さんはすでに広瀬の事を気に入ったのだろう。 いつもの如く、一生懸命話しかけて自分をアピールする事に余念がない。 白石さんも気に入ったのか、広瀬が千石さんの攻めに困っていると、さりげなく助けを入れているみたいだった。 「室町、どうかした?」 喜多に話しかけられて、ハッとする。 「なんでもない」 返事をしながら。 自分が今までずっと。 広瀬の事を見詰めていた事に、気がついた。 ……別に。 ただの同級生だから。 気になっただけ、さ。 オレは自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。 * * * * * * * * * 「だいぶ模擬店内部も出来上がって。後は皆のもんじゃ焼きの腕を上げるだけ、だね」 「そうだな」 たまたま一緒の帰り道。 「一緒に帰りたかったのにぃ〜〜」と、千石さんがすごく悔しがっている顔が頭に浮かんで消える。 本当に偶然なんッスからね。 誰にともなく、心の中で弁解する。 なのに。 なんでこんなにオレは、嬉しいんだろう? 「でも、室町君はなんでもソツなくこなせるから、安心してるんだ」 広瀬はそう言って、にっこりと微笑んだ。 誉めてくれてるのかな? 「後心配なのは亜久津先輩だけど。 まぁ白石さんや千石先輩もうまく誘導してくれているから、大丈夫だとは思うんだけど」 溜息をつきながら、広瀬が先輩の事を気にかけているのが、なんか気に入らない。 「君も、先輩達の操縦がうまいと思うよ」 つい嫌味半分な本音を口にしてしまう。 だが、すぐに返事がないから立ち止まって隣を見る。 彼女はキョトンとした顔でこっちを見ていた。 「どうしたんだ。一応その、……誉めたのに」 言葉の語尾を自然と濁すオレ。 情けないなぁ。 「……あー、誉められたんだ。でも、操縦なんて、私してないよ?」 彼女は苦笑しながら歩き出した。 オレも半歩遅れて、彼女の脇を歩き出す。 そうだった。 クラスの中ではあまり接点もなかったから、話すこともほとんどなかったし、彼女の性格なんてよく知りもしなかったんだけど。 こうして模擬店の事とか話をするようになって、彼女が天然系少女だったのだと、今更ながらに知った。 本人は無自覚に、相手の興味を引くような行動や言動をしてみせる。 多分、人間観察が自然と出来て、相手の気持ちをくみ取るのが得意なのだろう。 オレみたいにあれこれ考え過ぎないで答えを出せる、ある意味羨ましい存在だ。 だから自然と千石さんの誘いをうまく交わし、天然な部分で白石さんの見た目に反して真面目なアプローチもさらりと流している。 「そうだね、言葉が悪かった。君は個性的なテニス部の皆をうまくまとめてくれる、言わばソースのような存在かな」 オレは柄にもなく、頭に浮かんだもんじゃ焼きやお好み焼きを例えにして説明した。 「ソース、ですか?」 「うん。もんじゃにしろお好み焼きにしろ。 それぞれの具材が絡み合って旨味も出すけれども、それだけじゃ物足りない。 それぞれの味が強調し合いすぎて、美味しく感じられないと思うんだ。 でもソースがある事で、全てが落ち着いて混ざり合った美味しさを醸し出すんだ」 まだキョトンとこっちを見てる彼女は、素で可愛い。 「……ほら、帰りが遅くなっちゃう。少し急ごう」 「あの」 「何?」 「あっ」 広瀬はちょっと俯くと、すぐに顔を上げて微笑んだ。 「ありがとう。そう言ってもらえると、私、頑張って良かったなって。本当に、嬉しい」 照れたように笑う彼女は、さっきよりすごく、もっと可愛かった。 彼女に見惚れて自然と立ち止まったオレに近づき過ぎて、彼女の手が腕に当たった。 咄嗟に、オレは彼女のその手を掴んでいた。 「えっ?」 「……広瀬って、危なっかしい。手、繋いでいた方が、オレは安心出来る」 「え、でも」 「イヤなら、……放すよ」 「い、イヤじゃ、ない、です」 語尾はすごく小さかったけど。 否定されなかった。 オレは内心ホッとしつつ、その手を自分の手でしっかりと繋ぎ止める。 「……室町君って、日焼けスゴイよね」 「……そうかもな」 話題が思いつかなくって、口にしたんだろう。 別段自分も気にしていない、部員の中で誰よりも肌が黒いって自覚してる。 元は赤くなりやすかったけど、テニス部員として練習するようになってから、黒くなりやすく体質が変わったみたいだ。 「でも、どうしてか、解ったよ」 広瀬は隣で「ふふっ」と小さく笑う。 一人で納得してる。 まぁ、そんな様子も嫌味もなくって微笑ましい。 「あのー、そのサングラス、授業中でも着けているよね?」 「あぁ」 「どうして?」 ここまで直球で質問されたのも久しぶりだったので、素直に答えた。 「オレ、視力は悪くないけど、虹彩の色が他人より薄いんだ。だから人よりも眩しさに弱い」 「あー、だからいつもサングラスを着けてるんだ」 「病気とまではいかないけどね。日差しはもちろんだけど、蛍光灯でもオレには眩しくって辛い」 「へー、大変なんだね」 広瀬は真面目に頷いて感心しているよう。 「でも」 握っていた手を、ギュッと握られてドキリとする。 「室町君って、本当に努力家なんだね」 「なんでさ」 「だって」 覗き込むようにオレを見詰める彼女の瞳は、暗くなりかけて点き始めた街灯の光を受けて、キラキラと輝いてる。 「手のひら、すっごくゴツゴツしてる。これってラケットダコだよね?」 「そうだな」 「こんなに硬く出来てるって事は、それだけ練習してるって事でしょ?」 「まだまだだと、思う」 「……でも、こんなにタコ作って、真っ黒になって。室町君の今までの努力は、ちゃんと結果に繋がると思うよ」 ……はじめてだった。 どんな事にだって、努力は大切だと思う。 それが結果に繋がって、自分の目標に一歩一歩近づける最大の近道だと思うから。 誰だって、している事。 やっている事。 それを、真正面から肯定して受け止めてくれて、認めてくれる。 多分、口で言うより結果を残すという事は、簡単な事じゃないはずだ。 だけど。 理解してくれる人がいるって。 こんなに、心強い事、だったんだな。 部活仲間は同じ目標を分かち合う者だから、当然連帯意識もあるけど。 それとは違う心地良さ。 「……ありがと」 口からはお礼の言葉がもれていた。 「広瀬も、頑張ってるの。オレも、皆も解ってるから」 照れたのを誤魔化すように、言葉を続けた。 「あははっ、ありがとう」 彼女は素直に言葉を受け止めてくれたようだ。 ギュッと。 お互い繋いだ手に力を込める。 その後は、何も喋らなかったけど。 それでも。 手のひら越しに、もっと奥深い部分で。 繋がっていると、実感したから。 彼女の家付近で別れる時まで。 手が離れて……。 喪失のような感傷を知るまで。 自分が。 広瀬 静に。 恋してるんだと。 その瞬間、心の底から。 理解、したんだ。 * * * * * * * * * * * それから、学園祭最終日の今日まで。 オレはずっと、広瀬 静を見守っていた。 一緒に映画を観に行ったりと、デートもしたんだけど(相手の方はデートと思っていたのか不明)。 結構涙脆いオレは、映画のシーンについ涙して、サングラスを少しずらして拭いてしまった。 薄暗い中とはいえ、すぐ隣での行動は彼女にばれていたと思うけど。 映画館を出ても、彼女は何も言わないでくれた。 そんな優しさとか、学園祭二日前のゴタゴタでも皆を引っ張り導いてくれた統率力とか。 いろいろな顔を持ち合わせている彼女が、一段とオレにとって眩しい存在になってしまっていた。 空いた時間、一緒に他の学校の模擬店を回ったりして、オレ達二人は楽しく過ごした。 不動峰のお化け屋敷では抱き着かれるという嬉しいハプニングもあったけど。 (お化け役だった神尾と伊武、石田に「見せ付けられた〜」「イチャつくダシにしないでくれる?」「羨ましいなぁ」とそれぞれ感想を側で述べられた。彼女はパニくっていて、覚えていないらしい) 「男だったら、ちゃんと自分からエスコートしないとねぇ〜」 最後の社交ダンスは、絶対男から誘うべきだと助言をくれる千石さん。 ところどころで、「悔しいなぁ」とぼやきもたくさんくれた。 「別に踊らんでも、ええんとちゃう? まぁ、うまく二人っきりになるよう祈っとるわ」 と、爽やか笑顔で白石さんにまで発破をかけられた。 どうやら。 こっそり内緒に、広瀬への想いを胸に焦がしていたつもりだったのだけど。 周りには、バレバレだったらしく。 「まさか、室町がね〜」 「俺達の中で、春一番のり?」 喜多と新渡米さんが親指を立ててエールを送ってくれる。 「まぁ、うまくいく事を祈っているよ」 「応援してるぞ」 地味’s先輩達にまで応援されてしまった。 「ふん、まぁあいつは肝が据わってるからな。せいぜい尻に引かれない事だ。くくっ」 「亜久津先輩! 意地悪な事言ってはダメですよ」 「あんな事言ってますけど、応援してるんですよ」と壇君がフォローを入れてくれる。 キャンプファイアーが燃える広場。 ダンスを踊る人影が、炎の揺らめきの中に浮かんでいる。 一人、オロオロと踊る人々を見詰めている広瀬はすぐに発見できた。 オレが一回深呼吸してから「広瀬」と声をかけると、嬉しそうに寄ってきてくれる。 「踊らないのか?」 「ステップ覚え切れなくって」 「なら、その。……あっちの静かな方で、話、しないか?」 噴水のある広場の方を指すと、「いいですね」と微笑んでくれた。 よっし。 これからオレの、一世一代の告白をするつもりだ。 って言っても。 普通に「好きだ」って何とか言えるだけかもしれないけど。 彼女がどんな返事をしてくれても。 オレがサングラスの端に。 クラスメイトになった時からずっと。 君が映って、心の片隅に居座っていた事。 学園祭の準備で。 一段と、オレの心をメロメロになるほど虜にした事は。 最後まで秘密 (そこはクールで通っているオレとしては、知られたくないって事で) その代わり。 もし、オレの気持ちに応えてくれたのなら。 オレの秘密にしたいこのサングラスの下を、一瞬だけ見せてあげるよ。 だって。 きっと、……邪魔になると、思うから……。 アツい想いを、キミに届けるから。 2011.02.24 しゅりんか 素敵な萌企画! 「学プリ」「モアプリ」攻略対象外キャラ×広瀬静企画サイト「六等星の恋」様に提出させて頂きました。 参加させてくださって、ありがとうございました!! しかし、当初予定していた話とかなり変わってしまったが。まぁいいか。 |