企画部屋 | ナノ


4次試験終了後、最終試験会場へ向かう途中の飛行船内。


「やあ、セルシア◆」

「ヒソカ…!」

暇を持て余し、窓の外に広がる景色を眺めていた私は突然ヒソカに話しかけられた。

「何の用?」
「そんなに身構えないでくれよ◇」

ヒソカと直接話をするのは1次試験のとき、ゴンを助けようとして彼に攻撃を仕掛けて以来だ。はっきり言ってあまり関わりたくない。

「キミにいいものをあげようと思ってね◆」
「いいもの…?」

怪訝な顔をする私に、ヒソカは目を細めて笑う。四角いプラスチックのケースを手渡すとあっさり背中を向け、去って行った。

「使うかどうかは、キミ次第◆」
「?」


**********


「これがそのトランプ?」

目を丸くして私の手元を見ているゴンに、私は頷く。

そう、私がヒソカに渡されたもの――それは何の変哲もない一組のトランプだった。

「どうしよう…これ」

「どうしようって…今すぐ捨てろ!あいつが寄こしたモノなんて薄気味悪ぃ!」

レオリオがビシッとトランプを指さす。まあ、確かにそうなんだけど…

「捨てるのはもったいないよ。せっかく貰ったんだし」

「おめぇは何でそんなに警戒心がないんだよ」

警戒心がないわけじゃない。ただ、貧乏性なだけだ。

「見たところ新品のようだな。特に変わった様子もないが…」

クラピカは私の手からトランプを取り、ケースを裏返したり中のカードを調べたりしている。

「使わない方がいいのでは?相手があのヒソカだからな、何が起こるか分からない」
「やっぱり、そうだよねー…」

クラピカならそう言うと思った。でも使わないで持ち歩くだけっていうのも、なんか嫌な感じ。捨てるに捨てられないし…うーん、困ったなぁ。

「いいじゃん。試しにちょっと遊んでみよーぜ」
「うん…ちょっとくらいなら、大丈夫じゃないかな?」

使わない方向に意見がまとまりかけた時、キルアとゴンが目をキラキラさせて私を見た。えっ、本気?!2人ともそんなに好奇心旺盛だったっけ?…お願いだから無邪気な眼差しを向けないで。

「ねぇセルシア、1回だけ!」
「まずオレ達2人で毒味するからさ」
「毒味って…いや待って!2人だけなんて不安だよ。私も混ざるから…」
「「やった!」」

結局私もトランプをする流れになってしまった。恐るべし、子どもの好奇心。かく言う私も実はちょっと気になってたんだけどね。これでこのトランプが危険なものかどうかはっきりするし、結果オーライかな?

「ならば私も参加しよう。少し興味が湧いてきた」

「お前ら揃いも揃って怖いもの知らずだな…オレはパス「もちろんレオリオも参加な」ってなんでだよキルア!」

「死なばもろとも、だろ?」

「不吉なこと言うんじゃねぇクラピカ!」
「あはは…」

まあそんなこんなで、全員トランプをすることになった。とりあえず皆、退屈だったんだと思う。飛行船の中での待ち時間は結構長いから。

「じゃあ何する?ポーカーか大富豪か…」
「あの…キルア」
「ん?何、セルシア」
「ごめん、私…ババ抜きしか、知らない」
「・・・・・はあ!!?」

キルアにすごく驚かれた。…その反応はちょっと傷つく。

「まじで!?今まで何して遊んでたわけ?」
「いや、だからババ抜き…それか七並べ」
「この人数で七並べは無理じゃないかな?」
「それにつまんねーよ。…しょうがないな、ババ抜きにすっか」

いかにも譲歩してやった、という顔でカードを配り始めるキルア。確かにルールを沢山知らない私も悪いけど、この生意気な態度…怒ってもいいかな。いいよね、うん。

私はキルアにひと泡吹かせてやろうと密かに闘志を燃やす。早速配られたカードに目を走らせた。

「!」

危うく顔に出るところだった。辛うじてポーカーフェイスを保ったけれど、状況は変わらず…非常にまずい。

初っ端から、私はババを引いてしまった。

(我ながら運がない…)

5人でじゃんけんをして、勝ったゴンから順番に隣の人のカードを1枚引いていく。輪になって座っているのだが、私の左隣にはゴン、右隣にはクラピカがいる。つまり、私はゴンのカードを取り、クラピカは私のカードを取るということだ。

(私がババから解放されるためには、まずクラピカにババを引いてもらわないと…)

あまり気は進まないが、私がずっとババを持っていてはつまらないゲームになってしまう。現に今も、周りのババを持っていない気楽な4人がお喋りを始めている。

「最終試験ってなんだろなー」
「会長の面談、なんて答えた?」
「オレは――」

もうすぐクラピカが私のカードを引く番だ。私の手元に残っているカードはあと6枚。早く勝負に出なければ負ける確率は高まる一方だと、よく分かっていた。

クラピカはこちらを見ていない。皆の話に耳を傾けていて、トランプに集中していないのは明らかだった。私はさりげなくババのカードを上にずらし、ほんの少しだけ取りやすい位置に直した。目で見てもすぐには分からない程度に、いかにも自然にばらついている風を装って。

クラピカの手が伸びる。私は何食わぬ顔でカードを持ち、横目で様子を窺った。

(あっ…)

クラピカの手はババのすぐ隣のカードを取って行った。あー…やっぱり駄目か。こんな手に引っ掛かってくれるほど、甘くはないよね。

少ししょんぼりしていると、クラピカの肩が震えているのに気がつく。え、ちょっと。まさか。目で問いかけると、クラピカは耐えきれなくなったように手で口を覆った。

『すまな…くっ!』
『笑わないでよ!!』

どうやら私のさりげなさを装った作戦はバレバレだったらしい。急激に恥ずかしくなって、私は小声でクラピカに訴える。大声出すと、周りの皆にもバレるからね。それにしても…すごく、恥ずかしい。

『本気で引っ掛かると思ってないよ?!今のは試しにと思って…』
『分かった分かった』

クラピカはまだ可笑しそうな顔をしている。全然、分かってない気がする。

私が釈然としない様子でいると、クラピカはぐっと顔を近づけてきた。そして、私の耳元に唇を寄せた。

『しかし、そんな落ち込んだ顔をしていたら、他の者にまでばれてしまうぞ?』
「!!」

からかい気味に低く囁かれて、私は恥ずかしさと悔しさと、くすぐったさが顔に出てしまったと思う。周りにばれないように気遣ってくれるなんて、油断しすぎだよ、クラピカ。

勝負はまだ終わってないんだからね。

「オレあがり!」
「オレもー」

何周目かでゴンとキルアは早々に勝ち抜けし、残りはレオリオとクラピカと私。

私の手元にはババを含め4枚のカードがある。クラピカが特に迷うそぶりも見せずにカードを取った。私はレオリオから1枚カードを引き、レオリオはクラピカから1枚取る。

「よしっ!やっとあがったぜ」

レオリオも勝ち抜けた。とうとう私とクラピカの2人になってしまった。しかもババは未だ私の手の中にある。

ここでクラピカがダイヤのエースを取れば私の負け。真剣な眼をしたクラピカの手がカードに触れる。緊張の一瞬。

「あ」

私の手の中に残された1枚のカード。それは、ダイヤのエースだった。

「しまった・・・」

クラピカが悔しそうに呻き、周りの皆はやっと私がババを持っていたことに気づいたみたいだ。

「なんだーセルシアが持ってたんだ!」
「道理でババが回って来ないわけだ」

キルアの失礼な発言は気になるが今は後回しにする。問題はこれからどうするか。クラピカは手際よくシャッフルした2枚のカードを目の前に差し出した。

(考えててもしょうがないか…)

「えいっ」

・・・・・ババが私の元に戻ってきた。

次はクラピカが引く番。

「うわっ」

ババは再びクラピカの元に。

こんなやり取りが数分続いた。

「・・・・・」
「セルシア?」

(クラピカの表情から、何か読みとれないかなー…)

クラピカが持っている2枚のカード、交互に手を触れながら様子を見てみる。

じっと見つめていると、クラピカの表情に変化が表れた。

(あれ…?頬が、少し赤い…)

「あの、セルシア」
「何?」
「その…だな。あまり見つめないでくれないか…」
「どうして?」
「どうしてって…それは、だから」


「お前らもういい加減にしろよォォ!!いちゃつくなら外でやれ!オレへのあてつけか!?」

「落ち着こうね、レオリオ」






周りで見守る受験生達の眼差しが、妙に生温かったとかそうでないとか…


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