「う〜む……」
小さな顎に手を当てている少女がいた。
そこは色とりどりの物が並んでいるショッピングセンターのいっかく。
男性用のアクセサリーの目の前で.少女―ソフィアは唸っていた。
(どれが…いいのだろうか…)
美しい水色のドレスに身を包み.ふわふわとしたフリルが揺れている。
輝くような長い金髪は.ドレスと同じ色の大きなリボンのついたカチューシャで飾られていた。
ドールの様な美しい顔立ち.雪のような肌も人々を振り返らせる。
しかし少女はそんなことは気にも止めず.店のなかをふらつき始めた。
(う〜…こういうのは…苦手なのだっ…)
―ドンッ!
「!!」
ふいにソフィアは.誰かにぶつかってしまった。
「すっすまない…!」
ぶつかった相手は、ソフィアと同い年くらいの少女だった。
ベージュ色の髪は肘まで届く長さ、一部を左側でお団子に結っている。
若草色のワンピースを着たその少女は、何か別の物に気を取られていたため驚いて振り返った。
「こちらこそ、ごめんなさい…」
少女――セルシアは謝りながら、ソフィアの顔をじっと見つめる。
〔わぁ…すごく綺麗な人…〕
「?」
ソフィアが不思議そうに首をちょこんと傾げた。見惚れていたセルシアは慌てて両手を振る。
「あっ…何でもないの!本当にごめんなさい、よそ見してて…」
そう言ってセルシアは目の前のショーケースに視線を移した。
「大切な人への贈り物を考えていたの」
(かわいい…)
ソフィアは思わずそんなことを感じさせるセルシアの視線を追う。
そこには銀のネックレスがいくつも置いてあった。
ライトに照らされ.眩しいくらいに輝いている。
ソフィアのサファイアブルーの瞳が光を反射して輝いた。
「似合いそう…だな…」
ソフィアは.小さく言った。
「えっ…?」
セルシアは.ふいにソフィアを見て聞き返した。
「あっ…いや…その……」
ソフィアは.なんだか恥ずかしくなって頬を赤く染めて下を向いた。
(クラピカがつけたら…と想像したのだ…)
セルシアは不思議そうにソフィアを見つめる。
「もしかして…あなたも誰かに贈り物?」
セルシアが尋ねると、ソフィアははっとして顔を上げた。頬がほんのりと赤くなっている。
「男性用のアクセサリーってことは…恋人とか?」
セルシアは茶目っ気たっぷりの笑顔で訊く。
「…!!!…あ…あぁ…」
ソフィアの頭にクラピカが浮かぶ。
「でもっ…こ…恋人と言うほどでも…そのっ……」
ソフィアはどぎまぎしてしまって.必死に言葉を繋いでいる。
セルシアがおかしそうに表情を緩ませて.こちらを見ている。
「こ…こらっ…笑うなっ…!!!」
「ごめんね!つい、あなたが恋する乙女って顔をしてたから…。実は私も…好きな人にプレゼントしたくて、考えてたの」
ソフィアが驚いた様子でセルシアを見つめた。
「だから、もし良かったらなんだけど…一緒に見て回らない?」
「………」
ソフィアはじぃっとセルシアを見つめた。
セルシアは.ほんの少し緊張した様子で見つめ返す。
ソフィアは小さな口を開いた。
「………ソフィアだ」
「えっ?」
セルシアは一瞬きょとんとして、それからソフィアが名前を教えてくれたのだと気づいた。
〔そういえば、私たちまだ名前も知らなかったんだ…〕
「ソフィア…素敵な名前だね。私はセルシア」
よろしくね、と言って手を差し出すと、ソフィアは可愛らしく照れながら握り返した。
2人は並んでショーケースの前に立つ。
「どうしようかな…ソフィアはもう決まってる?」
「………いや…ちょうど迷っていたところなのだ…」
―ぐぎゅるるる…
「!!」
「?」
そのときソフィアのお腹がかわいらしい音をたてた。
セルシアは.驚いてソフィアを振り返った。
「……お腹が…すいたようだ…」
ソフィアは.ゆっくりと告白した。
セルシアは思わずぷっと笑いそうになる。しかし、それを見たソフィアが頬を膨らませたので咳払いをしてごまかした。
「それなら、近くのカフェに行こうよ!美味しいスイーツがあるお店なの!」
ソフィアは顔を輝かせて賛成し、ショッピングセンターのすぐ隣にあるカフェへ行くことになった。
**********
レンガ造りのおしゃれなカフェ。
日当たりの良いオープンテラスの席で、2人の少女はそれぞれ注文した品を前に寛いでいた。
セルシアはキャラメルマキアートを一口飲んでほっと息をつく。
その向かい側で.ソフィアがもふもふっと頬張っているのは.艶やかな苺が飾られたタルト。
甘すぎないカスタードクリームがよく合っていて.ソフィアは夢中で頬張っていた。
セルシアはそんなソフィアに驚きながらも優しい瞳で見つめる。
しばらくして.そっとおしゃれなティーカップを持つと.ソフィアは紅茶を口へ運んだ。
「…セルシア」
「?」
ソフィアは呟くように.遠慮がちにセルシアの名を呟いた。
「…どんな…人なのだ…?…その…大切な人とは…」
ソフィアは.めずらしく好奇心を露にして彼女を見た。
ぱちぱちと宝石のような瞳を瞬いて見せる。
「そうだなぁ…」
セルシアは“大切な人”の顔を頭に思い浮かべる。
「真面目で博識で、自分に厳しい人…かな?顔は…その、格好いいと思う…かなり」
話している内にセルシアはだんだん恥ずかしくなってきた。
「ソフィアの好きな人は?どんな人?」
セルシアはソフィアに訊き返す。
周囲からチラチラと、ソフィアに向けられる視線を感じていた。
〔こんなに美人なソフィアが恋してる人って…すっごく気になる〕
「似ている……」
「?」
ソフィアは.ぽつりと呟いた。
そして.どこかを見つめるように夢見心地な視線を外へ投げる。
「…冷静で…頭の回転が速いのだ…だが自分を大切にしてはいない…悲しい一面も見せるんだ…」
セルシアは黙って聞いている。
「だから…私は…彼を大切に思うのかもしれない…」
ソフィアは.まっすぐにセルシアを見て悲しみを含んで微笑んだ。
「…すまない…余計な話だったな…けれどなぜか.お前に聞きたくなったのだ………そろそろ行こうか…」
「…そうだね」
〔本当に…そっくり。まるで“彼”の話を聞いているみたい〕
2人は立ち上がり、店を出た。
「話してくれてありがとう」
セルシアは隣を歩くソフィアを見る。
「私も、ソフィアの気持ちがよく分かる。…聞けて良かった。きっと、私たちの思いは伝わるよね」
プレゼントに託して、この気持ちを伝えられたら。
「よし、それじゃあ早速探しに行こうか!」
「うむっ!」
ソフィアも軽やかに返事をした。