短編 | ナノ

雨が、ぽつりと地面に落ちる。

小さな染みは次々と増え、やがて全ての土を黒に変えた。


「…もう行くの?」

私はクラピカの背中に呼びかける。

雨の中、私の声はくぐもっていて自分でも聞き取りにくい。

だけど彼にはきちんと届いたらしく、歩みを止めてこちらを振り返った。

「ああ」
「そっか…」

いきなり降り出した雨。

クラピカは舗装されてない道の真ん中で、何も持たずに立っていた。

彼を急いで追ってきた私も、もちろん傘なんか持ってない。

私達はずぶ濡れになっていて、でもお互いそんなことはどうでも良かった。

「黙って行っちゃうなんて酷いんじゃない?」

「名無しさんがあまりにもぐっすり寝ていたから、わざわざ起こす必要もないと思ってな…」

そう言われると、返す言葉がない。

「…それで、どこに行くつもりなの?」

「…今更な質問だな」

「だって、」

「すぐ戻るよ」

クラピカは私の言葉を遮って微笑んだ。

その瞳は悲しげな色を宿していた。

私が目を離せずにじっと見つめていると、クラピカは手をのばしてそっと私の頬に触れた。

指先の冷たさが、肌を通して奥にまで染みわたっていく。

「本当に?」

「ああ、約束する」

私はゆっくりと目を伏せた。

クラピカの言葉を頭の中で何度も繰り返し、反芻させる。

「…うん、分かった。気をつけて…ね」

クラピカは私から手を離した。

そして、今にも消えてしまいそうな儚い微笑を浮かべると、静かに去って行った。

そのとき彼がすまない、と呟くのがかろうじて聞こえたけれど、私は聞こえないふりをした。




本当はわかってたよ、    あなたは帰ってこないって

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