短編 | ナノ


清々しい朝。私はいつものように学校の制服を着て、いつものように朝ごはんを食べ、いつものように…いや、いつもより早く家を出た。

(よし、今日は寝坊しなかった!余裕ある朝なんて久しぶりだなー)

上機嫌で通いなれた通学路を歩いていると、後ろから元気のいい声が聞こえてくる。

「名無しさんおはよう!」
「おっはよー!ゴン・・・っぐはあ!!」

さわやかに挨拶を返した私に、ゴンはイノシシのごとく突っ込んできた。

石頭の頭突きが背中にクリーンヒットする。名無しさんに1000のダメージ。

「あっごめん!勢いつけすぎちゃった」
「〜〜〜〜ッゴン!いつも気をつけてって言ってるのに!!」

背中をさすりながら涙目で睨むと、ゴンは申し訳なさそうな顔をして腰のあたりに抱きついてきた。

「ごめんね!名無しさんに偶然会えたから、嬉しくなっちゃって」
「・・・・っく!可愛いから許す!!!」

エンジェルスマイルを浮かべたゴンにそんなこと言われたら、何もかも許すしかないだろう!

この可愛い黒目ぱっちりの少年ゴンは、同じ学校の初等部6年生。私は高等部1年生なのでクラスは違うが、家が隣同士でよく一緒に遊ぶ仲だ。
ちなみに、子ども相撲大会で準優勝という輝かしい記録を持っている。

「ったく、置いてくなよゴン。それと、朝からいちゃいちゃすんな!」

「おっキルアくん!おはよー」

後ろからやって来て呆れたような視線を送っているのは、ゴンの親友のキルア。
ゴンと同じクラスでいつも2人一緒に登校するほど仲良しだ。ちなみに、子ども相撲大会の優勝者である。

「相変わらず真っ白な肌だねー。もっと日の光を浴びなさい!もやしっ子じゃないんだから」

「・・・あんたも、相変わらず変な奴だなー。てかいい加減離れろよ、恥ずかしくねーの?」

「恥ずかしくなんかないよ、スキンシップだもん!キルアも名無しさんに抱きついてみたら?」

「ば…っ!!そんなことするわけねーだろ!!」

「遠慮することはないよキルアくん!どーんと胸に飛び込んでおいで!あ、でも肋骨を折るのはやめてね」

「だからしねぇーって!」

顔を赤くするキルア。かわいいなあ。

私とゴンがにやにやしていると、キルアはからかわれたと思ったのだろう。(実際そうだし)
ふいに、黒い笑みを浮かべて私を見た。

「…本当に抱きついていいんだな?手加減しないぜ?」

手をバキボキ鳴らしながら近づいてくる。

「……え、ちょ、なにその殺気!?ちょっとたんまぁーーーー!!」

キルアが私の肩をがしっとつかむ。生命の危機を感じた私が絶叫したその時、救いの手(声)が差し伸べられた。

「一体何をしているんだ…」
「ク、クラピカ!!」

後ろからやって来て呆れた視線を送っている(あれ、デジャヴ?)のはクラピカ。
金髪美人な高等部1年、私と同じクラスの優等生である。

キルアはチッと舌打ちをして私を離す。私は急いでクラピカの背後に隠れた。

「ふう〜助かった!ありがとうクラピカ!あなたは命の恩人です!」

「…何があったか知らないが、大袈裟だな。どうせ名無しさんが怒らせるようなことをしたんだろう」

「めっそうもありません!ああ、クラピカが菩薩に見える…全ての不浄を包みこむ…まるで菩薩だ」

「(また、変なマンガの影響を受けたな…)それは幻覚だ」

「おい、名無しさん!オレは無視か!」

「…あれ、レオリオ先輩?いつからそこにいたの?」

「最初っからだ!クラピカの横にいただろ!!」

「ごっめーん!クラピカの後光が強すぎて黒い影にしか見えなかった!」

「お前なぁ…一応仮にも先輩にむかって…」

レオリオは諦めたようにがっくりと肩を落とす。医科大学に進学するために猛勉強中の高等部3年生の先輩だ。

それはそうと、私はクラピカに向き直る。

「今日はちょっと遅くない?いつも朝練あるんじゃなかったっけ?」
「ああ、今日は休みなんだ」

クラピカは『マジック同好会』という部に所属している。通称『マジ部』。なぜマジックに朝練が必要なのか、前から気になっていた私は思いきって訊いてみた。

「ねぇ、マジックってどんなことしてるの?」

「そうだな・・・コップの中の水を増やしたり、色や味を変えたり、水の中に不純物を出現させたりしている」

「(えらく限定的だな…)それってどんなしかけなの?」

「タネもしかけもないぞ。毎日修行すればできるようになる」
「それマジックと違う!!ただの水見式!!!」

ああ…おもわず世界観をぶっ壊す発言をしてしまった。すると、クラピカがいきなり私の手を握って真剣な顔になる。

「名無しさん…マジ部に入ってくれないか?」
「・・・はい?」
「名無しさんなら、新しいマジックを生み出すことができる気がするんだ」

いやいや、ふつーに無理!私一般人ですから!修行とかもめんどくさいし!!

「それより家庭科部に入れば?少しは女らしくした方がいいぜ。そんで、菓子とか作ってオレに食わせてよ」

キルアが横から割って入る。余計なお世話だ!っていうかそれ、単にキルアが甘いもの食べたいだけだろ!!

「ダメだよ!名無しさんが部活に入ったら、オレと遊ぶ時間がなくなっちゃうじゃん!」

ゴンが私の手をひっぱってクラピカとキルアから遠ざけた。3人が睨み合う。

「(なんなんだこの状況は…!!?)」

話が思わぬ方向へ行ってしまって、なにがなんだか分からない。
なすすべもなく突っ立っていると、(私たちを置いてさっさと歩いていた)レオリオが遠くから声をかけてくる。

「お前ら!いい加減にしないと遅刻するぞ!!」

「え!?ま、待ってええーーーーーーっ!!」

私の叫び声を合図に、みんな一斉に走り出した。






(クックック◇・・・今日もギリギリだねえ◆)

(ぎゃああああああ!!!校門の前にヒソカ先生がいるうううううう!!!)


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