Ocean blue | ナノ
最終試験A   01
(23/99)


気絶したゴンは別室へ運ばれ、第2試合――クラピカ対ヒソカの戦いが始まった。

しばらく戦った後、ヒソカがクラピカに何かを囁く。
その直後、ヒソカが負けを宣言したため、クラピカの勝利となった。

そして、次の第3試合は――ハンゾー対セルシア。

「あんた…えらくゴンに執着しているようだが、どういう関係なんだ?」

険しい瞳のセルシアと向かい合ったハンゾーが、軽い調子で訊いてくる。

「…大切な仲間、です。私は…あなたを許さない」

セルシアの脳裏に、先ほどの戦いで拷問され、苦痛に顔を歪めたゴンの姿が焼きついて離れない。
今なお、腹わたが煮えくりかえるような怒りを感じていた。

(たとえゴンが許したとしても…私は絶対許せない!!)


「始め!」

試験官の声が響き渡る。セルシアはそれと同時に杖を抜き、すばやくハンゾーの懐に飛び込んだ。
ハンゾーは杖の一撃をいとも簡単によけると、手に仕込んである刃物で反撃を開始した。

(…っく…速い!)

ハンゾーの尋常でない速さの攻撃に、セルシアは受け流すので精一杯だった。

(スピードは互角…だけど力では圧倒的に不利。このままだと私の体力が先に保たなくなる…)

この勝負では相手に「まいった」と言わせなければならない。つまり、相手より圧倒的優位の立場になり、勝つことを諦めさせなければならないのである。

(もともとの実力はあっちが上。いつまでも正攻法で戦ってたら負けてしまう…)

ザシュッ

剣先がセルシアの左腕をかすった。他にも、頬や肩に少しずつ傷が増えていく。
浅いものだったが、それがセルシアとハンゾーの力量の差を明らかにしていた。

「もう、諦めたらどうだ?逃げ回ったところで埒があかねぇ。…オレの方が強いってことは分かってんだろ」

ハンゾーはなかなか決定打を浴びせられないことに苛立ちながらも、自分が優勢であるという状況を疑っていない。その過信が、余裕と油断を生み出していた。

セルシアはそのスキを見逃さなかった。ゴンとハンゾーの試合を見ている時から、セルシアはハンゾーを倒す方法をずっと考え続けていたのだ。

(そう、たとえどんなに卑怯な手段であろうとも…)

誰にも気づかれないよう、静かに能力を発動させる。
そして、ハンゾーの足元に小さな水たまりを作った。

ずるっ

「…は?」

突然、ハンゾーは足を滑らせて体勢を崩す。

ドゴオッ

セルシアはハンゾーのみぞおちを思いっきり蹴り飛ばした。いつの間にか壁際に誘導されていたハンゾーは、壁に背中を打ちつける。

「…っ!!」

「動くな」

セルシアの冷淡な声が場内に響き渡った。その手に握られている金属の杖は蓋が外され、中の刃物があらわになっている。
そして、その剣先はハンゾーの喉元に突きつけられていた。

「…え?」

ハンゾーは目を点にして呆ける。自分が足を滑らせたことが信じられない、といった様子だ。

「あなたは、自分の方が強いと思って油断した…それが敗因です。本当は、」

セルシアは酷薄な笑みを浮かべる。もちろん、瞳は全く笑っていない。

「今すぐその喉を切り裂きたいところなんですが…その前に負けを宣言してください」

ハンゾーは冷や汗をかきながら口の端を歪めた。

「はっ…そんな脅しが通じると思ってんのかよ…」

ハンゾーの返答に、セルシアはすっと笑みを消すと、殺気を込めた眼差しで射抜く。
威圧感が何倍にも膨れ上がった。

(…!!なんなんだ、こいつ…!)


その様子を見ていた試験官のメンチが、ネテロ会長に耳打ちする。

「あの子…念能力使ってますよね…?」

「いや、あれは自覚しておらんじゃろう。そして念自体、あの者のオーラではないようじゃ。…念を借りている、といったところか」

「念を借りる!?…念能力者でもないのに、そんなことができるんですか?」

「かなり特殊なことは確かじゃのう…」

ネテロ会長は難しい顔つきでセルシアを見つめていた。


「わかった…オレの負けだ」

しばらくこう着状態が続いた後、ハンゾーが負けを宣言し、第3試合はセルシアの勝利で終わった。
ハンゾーが諦めた理由は、体勢を崩した原因が不明だったことと、セルシアの殺気が本気であったことが大きかったと言えるだろう。

こうして、セルシアは晴れてハンター試験の合格者となったのだった。


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