「名前はさ、俺のこと天才って思う?」

突然彼から放たれた言葉。
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

「うん、思うよ?」

「(…あぁ、やっぱり)」

彼は、予想通りの言葉が返ってきてしまったことに肩を落とす。もしかしたら…。もしかしたら彼女なら、他の人とは違う言葉を返してくれるのではないか。そんな期待を抱いていたため、その分ショックも大きいみたいだ。


「だって…」

…すると彼女は口を開いた。
どうやら先程の回答には続きがあるらしい。
そして一呼吸置くと、彼女は言葉を続けた。

「私はね、鷹は才能があるのにも関わらず、努力し続けてるなんて凄いと思うよ?」

彼女の予想外の言葉に、彼は目を見開く。
とは言っても、彼の表情には少ししか表れていないのだが

「いくらなんでも、練習しないと才能だって萎んじゃうでしょ?
ってか、その才能を開花させるためにも努力が必要だし。
自分は才能がある、ってことに溺れないでずっと努力し続けてる鷹は本当に凄いと思う。」

そう言って彼女は笑った。
……あぁ。彼女はいつも、俺が欲しい言葉をくれる。
他の人が俺のことを分かってくれなくてもいい。…彼女が、ちきんと分かってくれているのだから。

「…別に、努力なんかしてない。」

ただの習慣だから。そう続けた彼。
これは彼の単なる照れ隠し。
それを分かっているのかいないのか、
彼女は優しく微笑み、

「鷹のそういうトコ、私は好きだよ。」

あぁ、本当に彼女は優しすぎる。
だから自分にはもったいないのでは、と悩む彼。
…でも。
でも、自分にもったいない、だなんて関係ない。
彼女は彼のことが大好きで、彼もまた、彼女のことが大好きなのだ。
だから、他の奴に彼女を渡す真似だけは絶対にしない。

「…俺も、名前が好きだ」

そう言うと、また彼女は笑った。
そして今度は、彼も一緒に。



それから2人は、どちらともなくキスをした。



君がいればそれだけで
(後はもう、なにもいらないから。)




10.02.03
………………
天才ってのも考え物です。
だって、周りには生まれつきの才能、としか見られないのだから。
天才だって努力してる、ということに気付く人はどれくらいいるのか。

いくら才能があるからって、努力しないとその才能を腐らせてしまうだけなのに。

何故、みんなそれを理解しようとしないのだろう


鷹は、それを理解してくれる彼女が大好きなんです。


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