私には、好きな人がいる







You love me?














私の好きな人はテニス部で…凄く人気がある。
それでいて、人を騙すのがとてもうまい。
コート上の詐欺師──と呼ばれるほどだ。

でも、本当はとても優しいのを私は知っている。
…それが、私があいつを好きになった理由。


……そう、それは少し前の話…




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それは私が一年生になったばかりのころ。
中学校生活にまだ慣れていなかった。




天気予報では晴れだったのに、いきなりの土砂降り。
もちろん、私は傘なんて持ってない。


私は、昇降口に腰掛けて、雨が止むのを待っていた。
それでも、雨は強まる一方で…。

(ハァ…。全然止む気配ないし。)

もう、濡れながら帰っちゃおうかな? と思い始めたころ、1人の男子が近づいて来た。


誰だろう? と思っていたら、その男が話しかけてきた

「お前さん、傘無いんか?」

聞いたことのない、喋り方。
少し戸惑ったが、意味が分からないわけではない。
あまり間をあけては失礼だと思い、私は口を開いた。

『…見て分からない?持ってたら帰ってる』

私がそう答えると、その男は苦笑し、(ちょっと冷たかったかな?)私にこう言った。


「この傘、使いんしゃい」

そして、言葉と一緒に差し出された傘。



『…君はどうするの?』

「走って帰る。トレーニングにもなるしの。」

『濡れる、よ?』

「家近いから大丈夫じゃ」


私は少し戸惑う。

初めて会った人に傘を借り、君は濡れて帰れ。
…失礼ではないだろうか?

私が難しい顔をしていると、男は念を押すように、「ほれ」と言って傘を差し出してきた。

『……じゃあ、お言葉に甘えて…。』

私は傘を受け取った。
…するとその男は、満足そうに笑った。


その笑みは、凄く…、綺麗だった。


(…そういえば、男のくせに綺麗な顔立ちしてる……)
その男のあまりの綺麗さに、見とれてしまった。

「…じゃ、俺はそろそろ帰るナリ」

男の声にハッとなる。


『あ……うん。傘、ありがと。』

「別に構わんよ。……じゃあの」

『…あ、………待、って!』

「なんじゃ?」

『君…。君の名前は?』

「…仁王。仁王雅治。お前さんは?」

『苗字名前』

「いい名前じゃな。」

『そうでもない。』

「フッ……。じゃあの」

その男、仁王雅治は、私に二回目の別れの挨拶をして、雨の中に消えていった。


(仁王雅治…ね。…覚えておこう)

そう心の中で呟いた私の顔には、自然と笑みがうかんだ。






(仁王雅治…。)(今思うと、一目惚れだったのかもね。)







10.01.28
………………
二年前くらいに書いたもの。
発掘したので、せっかくだからup
仁王は書きやすい(´・ω・)