in保健室



 保健室に入り浸っている。

「菊池くん、サボりすぎじゃないですか」
「そうなんですよね」

 保健室は微かに薬品の匂いがする。
 ほんのり控えめに差す陽射し、パリッと皺ひとつないベッドのシーツ、常に稼働している加湿器。具合が悪い人が利用するのが保健室というだけあって煩い奴は来ないし、こんなに快適な場所他にあるだろうか。いやない。俺は学校で1番好きな場所を挙げろと言われれば迷わず保健室を挙げる。

「そうなんですよねじゃないでしょう……」

 そんなここ、男子校の保健室で保険医をしているのが目の前にいるシマ先生だ。30代後半なんて嘘だろうという程若く、落ち着きのある美丈夫である。

「ああそうだ菊池くん」

 滑らかな低い声が俺を呼んだ。

「はいセンセ」
「君が入学してから3ヶ月。僕はこんなに保健室を利用する生徒を見たことがありません」
「ありがとうございます」
「こら、ふざけないの」
「いてっ」

 ぺち、とおでこを控えめに叩かれる。こんなの最早シマ先生のファンである俺からしたらご褒美でしかないし、もっとやってほしいですと口から飛び出そうになったが慌てて呑みこんだ。

「成績は大丈夫なんですか?」
「うん、成績は大丈夫です。俺、勉強はちょうできる」
「どうしてこんなに保健室に入り浸っていて成績上位なのか……」
「俺って保健室に来ること以外に趣味がないから、帰ったら普通に勉強とかしてるよ」
「君は趣味で保健室に来ているんですか」
「へへへ」
「よっぽどタチが悪いですね」
「よく言われます、あ、センセ冷蔵庫に入ってるアイス食べていい?」
「もう勝手にしてください……」

 呆れたように笑う。シマ先生のこうやって結局は甘やかしてくれるところなんか含めて、居心地のいい保健室が俺は大好きだ。

「ちょっと僕は会議でここを空けるので、誰かきたら応対してください」
「任せていいんですか」
「もう何回も一連の流れ見てるでしょう?」

 何やかんや言っても、シマ先生には勝てない。
 パイナップル味の甘いアイスが少しだけ歯にしみた。


 窓から射す光の心地よさにうとうとしていたそのとき、ガラガラ、と乱暴な音が響いた。ひとが入ってきたことを知る。

「……ヤンキーだ!」

 目をぱちくりさせると、「あ?」と思い切り睨まれた。濁点がついていたのはきっと気のせいではない。
 綺麗なほどのド金髪。パッと見でわかる怪我の数。ヤンキーだ。よりによってヤンキーがいらっしゃった!

「……保険医は」
「今ちょっと用事で空けてます。簡単な手当なら俺できるけど、します?」

 考え込んだ後、ヤンキーさんは小さな声で「頼む」と言った。




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