失恋病


 諦める時期はもう、とうの昔に過ぎた。
 素直に叶わない恋を認めて、受け入れて、さっさと捨てれば良かったのに。そんなことはいつも思ってる。後悔、というならば後悔なんだろう。
 あの人の事を、諦められなかった、後悔。

「ゆきーぃ、今度わたしのバイト先の社員さんと会ってみないー? ゆきって年上が好きだったよねえ?」
 こうしてちょこちょこと私に出会いの機会をくれる彼女は、私の恋の遍歴を大分知っている。
「うん、年上の人の方が好きだね」
「でしょー? その人ね、今27歳で、背が高くて人が良い感じ! その人も今彼女いなくてね、ゆきの話してたら会ってみたいって!」
「うん、ご飯とか1回くらい行ってみたいかも」
「ほんとー? じゃあ、今度のバイトの時に伝えておくねっ」
 語尾に音符マークでも付きそうなテンションで言う友達に苦笑しながら、次の授業のために手を振って別れる。

 彼女の知り合いとは、この1年でどれくらい出かけただろうか。
 教授の話も手元のプリントの内容もそっちのけで、ここ1年を振り返る。
 甲斐性の良いあの子の性格に半ば呆れながらも、もしかして、の望みを持っている自分がいることも、ちゃんと気がついている。
 未だに、スーツを着た後ろ姿を鮮明に思い出せる。時たま出かけたときに盛り上がった話、好きなもの、嫌いなもの、ものすごくたまに出てくる家族の話。忘れてしまった事もたくさんあるけど、覚えている事も、それなりにある。思い出してしまう欠片は、私が思っている以上に至る所に落ちている。

「……ばかだなあ、私」

 こんな独り言を、今までどれだけ吐いてきただろう。
 あの人に会うこともなくなってもう1年。
 私は未だに、失恋から立ち直っていないらしい。

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