日曜日のお昼過ぎ。久しぶりにお互いの都合が合って、今日は彼の家に遊びに来ていた。 お昼も食べ終えて特にやることもなく、テレビをつけることもなく、大学の課題で読まなきゃいけない本のことを思い出して私は読書をしていた。
「あのさー、ユミちゃん」 彼はいきなりそう言うと、肩を抱いてきた。 「なんですか、ユウタロウくん。ちゃん付け嫌いって前言ったよね」 冗談めかして言ってくるけど、ちゃん付けは正直本当に好きじゃない。ていうか、話しかけられると本に集中できないんですが、ユウタロウくん。 「あーうん、ハイ、ごめんなさい。いや、オレが言いたいのはそういうことじゃなくてですね」 「じゃあ何?」 心なしか、視線も感じる気がする。 「由美さあ、そっけなくない? オレに対して」 ぎくり。 「……そう?」 「そう」 何でもないように返したけど、意識的にそっけなくしていたんだもん、そりゃあ分かりますよね。ばれちゃいますよね。 「由美はさ、オレのこと嫌い?」 ……どうしてそういうイコールが繋がってしまうんだろう。 「……なんで?」 「だってさ、視線がこっちに向かないしさ。こうやって二人きりでいるのに読書に夢中だしさ」 「………………」 二人きりでいるときに読書したっていいじゃない、そっち向いたら目が合うのがどうしても恥ずかしいんだもん。なんて、恥ずかしさとは縁のなさそうな優太郎には分かるはずがない。 ためしに彼の方を向いてみたけれど反動で反対側を向いてしまった。キッチンとご対面。 「ちょっと、何でそっち向いちゃうの。オレこっちですけどー」 そんなの分かってる、ああもう肩を抱く手の力が強くなってきた、こんなことしてると多分そのうち無理矢理キスされる、それは今以上に恥ずかしい。 「だって、顔、近い」 言葉少なにそれだけを伝える。キッチンに向かって何言ってるんだろう私。 優太郎の反応は思った通り、予想外の展開に驚く声だった。 「え、オレ昼ごはんにニンニクとか食べてないよ、臭くないつもりなんだけど」 「いや、臭い、とかじゃなくて……」 「じゃあ何でそっぽ向いちゃうの」 「…………恥ずかしいから」 「恥ずかしい?」 彼の言葉に小さく頷く。 ああ、優太郎には分からない気持ちだろうな。きっと彼は、公衆の面前でキスするのも構わないタイプだ。 「……優太郎のこと、嫌い、じゃないから。そこは安心して」 どうしても、『好き』だとは言いづらい。のに、彼は未だに私の気持ちを上手く汲みとってくれない。 「じゃあ好きじゃないの?」 「……好き、だけど」 絞り出すような声でそれだけ言った。これじゃだめだ、いつまでたっても彼は分かってくれない。
「ここまで言わないと、気づいてくれないの?」
勇気を振り絞って、彼の方を向く。大丈夫、思ったよりも顔は近くない。 「……こうやって一緒にいるのも、隣で本読んでるのも、相手が優太郎だからだよ」 全部全部、愛があるからこその行為なんだから。
彼の目を見てそういうと、今度は彼が口に手を当ててそっぽを向いた。 ああ、確かに意外と傷つくかも。今後は気を付けよう。
「ユミちゃん、オレやばい、幸せすぎて死にそう」 「ちゃん付けはやめてって言った。あと、死なれたら私が困る」
もうちょっと、分かりやすい愛情表現ができるようになろう。 そんなことを誓った、日曜のお昼過ぎ。
(言葉にする前に、本当は気付いてほしかった)
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