ふと目に入った君の机。
普段は仕切ってあるアコーディオンカーテンがほんの少しあいていて。 いつも何もない綺麗な状態を保っているはずの机の上に、長方形の白い紙が置いてある。 なんだか違和感を感じて、その紙をよく見れば。
―きみはどこまでとりのようなんだろう―
「っ…………。本気かよ……」
俺は手に持っていた紙をぐしゃっと握りつぶして、歯軋りをした。 記憶喪失になった月。
握り締めてくしゃくしゃになってしまった手紙には、こう書いてあった。
『いままでめいわくかけてしまってごめんなさい。 やさしくしてもらってとてもうれしかったです。 じぶんがだれかもよくわからないまましんせつにしてもらっていて、 とてもこころぐるしくなりました。 わたしをさがしにでかけます。だから さがさないでいてください。 めいわくはかけたくないので。 いままでありがとうございました。
つき』
何のためにお前の世話してたと思ってんだ馬鹿野郎。ご近所付き合いとかそういうもんじゃねーんだよ。お前が大事で、好きで好きでたまらないから、記憶取り戻せるように奮闘してたってのに。 ……なんでお前は、そうやって何処かへ行ってしまうんだ? 記憶を失う前だって、今だって。
自由を求めていた彼女。いつもいつも、何にも縛られることなく。 だけどそれは俺の目の届くところまでにしてくれよ。
いたたまれなくて、手紙に書いてあったことなんて無視して俺は靴をちゃんと履く前に玄関を出た。 君のいくあてなんて知らない。
だけど、帰る場所は俺の隣だろう?
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