たった、些細な一言で。 たった、些細な行動で。 どうして私がこんなに辛くならなきゃいけないんだろう。
―ただただ、泣いてばかりいた―
特に誰が死んだわけでもなかった。 特に誰が怪我をしたわけでもなかった。 赤の他人から見たら、どうってことない話なのかもしれない、つい先ほどの出来事。
近所に住む幼馴染の祥。 私は、彼が大好きだった。友達なんて目線じゃなくて。憧れでもなくて。 純粋に恋をしていた。 二つ上の祥は昔から面倒見がよくて、幼稚園ぐらいのころからよく一緒に遊んでいた。 たまに喧嘩をしたりして、居心地の悪い時期もあったけど。 ずっと一緒にいれるって、それが当たり前なんだって思ってた。 だけどさっき、家に遊びに行ったら。 私を見るなり早々「話がある」と言って彼の部屋に呼ばれた。 留学の話だった。 もともと祥は頭がいいほうだったし、世界を見て周りたいって夢も知っていた。 彼の話を聞くたび、「叶うと良いね」って笑って応援していた。
「留学?」 「そう、留学」 「どうしてまたそんな……」 「先生に将来のこと相談したんだよ。そしたら、留学がいいって」 「………………」 「そんな顔するなよ、優。お前ももう高一だろ? 俺がいなくたって大丈夫だろうし。 ほら、高校入ったらさー、世界観広がるじゃん。すーぐ彼氏できるって!」 「………………」 「ま、俺は女子に縁なんてないからそういう話は皆無だったけどさ。あ、彼氏できたら教えろよ?俺が見極めてやるからさっ」
私が好きなのは祥なのに。 そんなことを知らない祥ときたら、ころころころころ私の恋愛話を進めていった。 話を聞き流しつつ、確信した。 祥が私に対して恋愛感情が全くないことを。 きっとどれだけ可愛い人に会っても祥は夢にだけ突き進む奴だから。 そんなことを考えていたらどんな話を聞いても耐え切れなくなってきて、しまいには無理矢理帰ってきてしまった。
何もいえない自分が嫌で、悔しくて。 人の気持ちも知らずに勝手に話を進めていく祥にムカついて。 あんな奴嫌いになりたくて。 だけど笑顔が忘れられなくて。
頬を伝う涙がカーペットに落ちて滲んでいく。 こんなことなら消えてしまえたら良いのに。 この涙が海となって溺れることが出来たら楽なのに。
十六年間の人生で、初めての失恋というものだった。
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