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あああいつはまた穴を掘っているのかな、廊下を歩きながら思った。あいつはいつも穴を掘っていた。そこに何があるのか、底に何があるのか、俺には全く見当もつかないけれど、あいつはいつも穴を掘っていて、いつも穴を掘っているあいつを俺はいつも探していた。見付からない日は、豆腐定食も喉を通らないくらい。(あれなんで俺はこんなにあいつを探してるんだろう、)

「久々知先輩」
「き、はちろう」

こんにちは、踏鋤を片手にいきなり現れた綾部喜八郎は、飄々とした顔でそう言った。なんで探す前に現れるんだ、なんで声を掛けてきたんだ、なんでなんで、なんでだ、なんなんだこの気持ちは、なに、?

「今日は先輩の顔を見ませんでしたので」
「え?あ、ああ」
「それじゃあ」

ぺこりと頭を下げて廊下を歩いていく喜八郎の後ろ姿を見てもまだ頭の中の理解は追い付いていなかった。どういうことなんだ一体。

あいつは穴を掘るけれど、時折ふっと俺の前に現れる。なにもなかったかのように去っていく。気づいたけれど、どうやら俺は綾部喜八郎が好きなようだ。なんてこった、顔から熱が引かない。