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「喜八郎くん」

君の髪の毛は、きれいだね。
そうタカ丸さんは微笑みました。心底嬉しそうに、櫛を通すタカ丸さんを前にぼくはなあんにも言えないままで、ただ黙ってされるがままに。いくらぼくが、ぼくの髪は癖っ毛です、トリートメントなんて気が向いた時にしかしません、等々付け足しても、タカ丸さんはぼくの髪を撫でてはきれいだねえと繰り返すばかりで。

きれい、
また一つ小さく言葉が聞こえて、ぼくは目を瞑りました。


(この人はぼくの髪にしか触れない)