文字 | ナノ





「八左ヱ門、八左ヱ門」

何回か自分の名を呼ぶ声が聞こえて、振り返ると兵助が居た。どうした、と俺が首を傾げると、兵助は綺麗な笑顔を浮かべて手に持っていた桶を俺の前に差し出して来た。

「これ、お豆腐。俺が作ったの、八左ヱ門前にお豆腐作ってあげたときによろこんでくれただろ?」

それが嬉しかったから、また、八左ヱ門に食べてもらいたくて。
そんな風にいじらしそうに言う兵助にちょっとだけときめいたりして、ハッとして自分の頬を叩く。俺はなにを考えてるんだ、せっかく友人が俺にって豆腐を作って来てくれたのに。
桶を覗き込むと、可愛らしい猫の形をしたお豆腐がゆらゆらと水のなかで揺れていた。やっぱ兵助の作る豆腐ってすごい。ありがとな、と言って豆腐を受け取ると、兵助が嬉しそうに笑った。

「八左ヱ門に豆腐を食べてもらえて嬉しいよ。また、感想聞かせて。明日も作って持ってくるからさ」

にこにこと終始笑顔を絶やさずに兵助が言う。そんな兵助に、俺も笑顔で頷いた。明日も持って来てもらえるの、楽しみだなぁ。



「勘ちゃん勘ちゃん」
「あ、兵助おかえり!どうだったの?」
「受け取ってくれたよ。明日も作って持ってくるって言ったら、八左ヱ門喜んでくれた」
「あららー……やっぱ頷いちゃうよなぁ。八左ヱ門かわいそう、兵助に目付けられちゃって」
「なに、勘ちゃん」
「なんでもないですー」
「明日はどんなお豆腐にしようかな」
「………がんばれ八左ヱ門」


◎お豆腐テロテロリスト