妹連載の三日月視点


妹君は実に可愛らしい。

滅多に見掛けない彼女はどうやら離れの部屋で篭っているらしい。俺は鍛刀された時に挨拶として顔を合わせただけなので、現在彼女がどうしているかわからない。
最初見た時、主も妹君も可愛らしい女子だと思ったが主の方に違和感を感じたのはやはり間違いではなかったらしい。

一度しか会ったことがない妹君は掃除や調理などやっているらしいが、それをあまり見たことはない。その時はだいたい俺たちは出陣しているか、遠征の最中だからだ。他の刀剣たちでたまに見かけるらしいが、俺は主といつも共に居なければならない。
主の自室で、主の甘ったるい声を耳が腐るほどに聞いた。楽しくもない、この女の身体を抱くことなど…欲情なんてするはずがない。固くなるはずの部分もすっかりと萎えており、この女の中に突き立てる事など一度もなかった。主は何度も何度も入れて入れてと甘い声を出しながら泣き喚いていたが、俺はそれを聞き入れることはしなかった。

誰が好きでもない女などに欲情出来るか。俺は妹君が欲しい。
彼女さえ居てくれればいいのに、こやつは邪魔をする。ああ、何と憎いことか。いっそ殺してやりたい。
主は審神者としての仕事をしない。重傷で動けない者を手入れする程度で他は放置。苦しそうな顔で座り込んでいる短刀たちを見ても見ぬふりだ。挙句の果てには使えないから要らないと遠征ばかり行かせる始末。
資材は沢山あるのに手入れなんかに使うなど勿体などとほざき、重傷者以外はすることはなかった。
それ以外の時間は基本的に俺と居るか、俺が出陣している間は鶴や一期に相手をさせるとういう卑劣な行為を繰り返している。刀剣達の疲労度は増すばかりで、目から光を失った者は何人増えたか…わからない。
俺から主に言った。


「主よ、少し刀剣たちを休ませてやってはくれぬか」

「三日月の頼みでもそれは駄目。休んだら政府にバレちゃうじゃない。通報されるなんて事させないから」


殺してやりたい…

三日月の憎悪は募りに募っていた。瞳の中の美しい三日月がギラリと煌めく。

その思っている時、唐突に妹君は大広間に入ってきた。美しい顔を歪ませて…嗚呼、その顔でさえ愛おしい。
横に居る主がどうしてあんたがここに居るのよ…と皆には聞こえぬ声でぼそりと呟いていた。動揺しすぎて俺が隣に居ることを忘れているようだな、しっかりと聞こえておるぞ。それにしても、この女…やはり妹君をこちらに来させないようにしておったか。余計な真似を…

思い切り横に居る主に殺気をぶつけるが気付かない。

はは、まあ当然か。
何人かは俺の殺気に気付いて青い顔をしてこちらを見ている者が居たが、関係あるまい。


主と妹君は似ているようで似ていない。
主は茶に近い焦げ茶の髪を背中まで伸ばして、顔は化粧を塗りたくっている。顔は悪くはないが、その分厚い化粧のせいで台無しだ。纏う雰囲気も刺々しい。これで稀に人間にいる神気持ちだと言うのだからおかしな話だと思った。
一方、妹君の方は同じ色素の髪を首元くらいの短さの無造作。顔は可愛らしく、化粧はしていない。潤った綺麗ななめらかな白い肌に頬は少し桃色に色づいて、瞳は和らぎを与えるような緑、纏う雰囲気はとても心地よく、温かいものだった。
俺はこの時に確信した。違和感というのは、この纏う気の違い。妹君は霊力や神気などを持ちあわせてはいないと主から聞いたが、それは嘘だと。

微弱ではあるが妹君から神気を感じる。付喪神ではあるが、上の位になるとその微弱をよく凝らせば感じることが出来る。
抑えている、妹君は神気を制御し、抑えている。そう確信した。
確信したことにより、口元が自然と上に上がる。
主は元々神気も、霊力さえも持ちあわせてはいなかったのだ。妹君から神気を分け与えてもらい、あたかも自分がこの本丸を支えているとでも主張するような演技を決め込んでいたのだ。

ああ、抑えろ。笑ってしまう。こんなに滑稽な事があろうか。自分よりも幼い妹に力をもらっていたとは…!

妹君は主の前まで来ると姉しか視線を向けないまま、説教をし始めた。
必死に主に訴えかけ、周りの惨状を見て辛そうに顔を歪める姿に俺はうっとりとその様子を目に焼き付けていた。隣で愚かに動揺している主になど一切視線をくれてやらずにただ、妹君だけを瞳に写した。
どうやら妹君は資材がないときは自ら戦場に赴き、資材を調達していたらしい。それに皆は驚愕し、俺は笑みを深めた。
彼女は、こんな道具のために命がけで戦場に行って資材を取ってきていたのだ。それも資材の使用超過、俺を鍛刀するために使われ、無くなり、手入れも出来ない状態になったために妹君が起こした行動であると。

俺はゾクリと身が震えるのがわかった。妹君が命がけで、命を掛けてまで戦場で調達してきた資材を使って、俺が鍛刀されたことに喜びを覚えた。
彼女の色々な想いがこの身に刻まれているのだと思うと、ゾクゾクと興奮するのがわかった。初めて主に感謝した瞬間だ。俺をここに呼び寄せたこと、それだけは感謝しよう。

そしてもう用済みだ。どうしてやろうか…?

じっと妹君を見つめていると、視線が痛いほど伝わってきたのかちらりとこちらを見てきた。しかし、ぎょっとしてすぐ姉に視線を戻す。嗚呼、その瞳に映すのが俺だけならいいのに。ずっと視線を向けられている主にどんどんと憎しみが籠る。
そしてそのまま背を向けて大広間から出て行く妹君に身体が動きそうになった。

あの小柄な身体をこの腕に閉じ込めて二度と出れないようにしてやりたい。愛して、愛して、溢れるほどの愛を注いで妹君が俺しか映らないようにしたい。
欲の籠もった瞳を妹君に向けていると、隣に居た主は気まずくなったのか厠に行ってくると勢い良く立ち上がり出て行った。そのまま帰ってこなければいいものを。


「ちゃんと顔見たの久々な気がするぜ…」
鶴丸が少し離れた場所で出て行った方向を見つめて驚きの表情でそう呟くと、皆も頷いた。

久々に見た妹君の顔は前よりも幾分可愛らしくなっていた。少し寂しそうな顔…かわいそうに、主に言われてこちらに来れないのだろう。こちらから行ってやりたいが主が邪魔で動けない。本当に殺してやりたい…一度主が寝ているところを襲おうとした事があるが、ふと考えてその振り上げた刀の動きは止まった。
あんな主でも妹君の姉。殺してしまったら、妹君が悲しむのではないかと。もしかしたら妹君も姉に殺意を抱き、殺してしまいたいと思っているかもしれない。しかし、まだどこかで妹君が姉を慕っている…という可能性を捨てきれないのだ。そうでなければ何もせず姉の命令を黙って聞いているはずがない。
殺すのは諦めた。しかしいつかはこの主を追放したい。


今は楽しい時を過ごすといい。主よ、その遊戯に今しばらく付き合ってやろう。

だが覚えておくがいい、黙っているほど神は優しくないのだ。いつかその身に思い知らせてやろうぞ。
冷酷に、無表情でこれからやってくるであろう主を待つ三日月に周りの空気は凍った。狂気に満ちた瞳は刃のように鋭く、誰をも恐怖させてしまうほどに彼は主を憎み、妹君を想う。
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