女だからって舐めんなよ!の番外編





「ねーねー主!!起きて、朝だよ?」

「ん…ぅ?朝…あぁ、って加州!?」

「むぅ、その加州っていうのやめてくれない?清光って呼んでよ主!」


いつからこうなったのか。

寝起きでボサボサの髪をした私の横に加州が座ってニコニコとしていた。
そしていつから私はここの主になんてなったのか。
それから清光と呼べば、とても嬉しそうな顔をして抱きついてきた。寝起きの私に力なんてあるわけがなく、されるがままになる。
刀剣って体温無いのかなあ…冷たいなあ。なんて思いながらぼーっとしていると、襖が乱暴に開けられた。


「おい、ブス。何してんの…ってはぁ?主起こしてくるだけって言ったじゃん。ふざけんなよ、お前!」
そう言いながら大和守はキレながら畳をドタドタと足音を立てながら大股で近づいてくると清光を乱雑に引き剥がした。

それにカチンときたのか、清光は目を細めて大和守に掴みかかった。
ああああ、喧嘩なら庭でやってくれー朝から騒がしくしないでくれ、寝かせてくれーなんて思いながらその光景を止めずにぼーっと見ていた。言われずとも私は寝起きがあまりよろしくない。低血圧ではないが、身体が動くまでに時間が掛かるのだ。


「ちょっと、二人共何してるんだい?早く主を連れて大広間まで来てくれないと短刀達がお腹を空かせてるよ」
石切丸さんが静かに襖を開けて入ってきて状況を見てため息を吐いた。


「主も、ボケっとしてないで早く支度して。この二人に構ってる事なんてないからね」

グチグチとお説教が始める前に私はムクリと立ち上がる。
石切丸の言葉が癇に障ったのか、清光と大和守は石切丸の目の前まで迫って睨みつけた。


「ちょっと、どういうこと石切丸!まるで俺達が主の邪魔みたいな言い方やめてくれない?」

「いや、邪魔なんだよ!ほら、主が着替えられないからさっさと部屋出る」

「ちょ、押さないでよ」

「邪魔…ねえ、主…、俺邪魔なの!?俺、いらない子?主、何でもするから、お願いだから捨てな「はいはい行くよ」はぁ?!石切丸!!邪魔しないでよ!!」

「……」
何というか、賑やかで何よりです。

石切丸が完全にこの本丸のパパになってるわけだけど。完全に清光と大和守の子守しちゃってるけど。
清光は被害妄想激しいし、やっぱり私一人がいいな!!!何がどうしてこうなっちゃったんだろう!!

庭を見れば一面に咲き誇る花に澄んだ池の中で元気に泳ぐ鯉。周りは自然豊かに木々に覆われていて部屋に入り込んでくる風もとても心地良い。
以前はブラック本丸と言われてもわからないほど変わっていた。それはこの本丸が修復した事を意味する。しかし未だに手入れをさせてくれない方々が居るため、私はここを離れる事が出来ないのだ。

打ち解けた面子でいつも大広間でご飯を食べる。最近では光忠が積極的に食事を作ってくれるようになって、皆の分を用意してくれる。私は私で用意しなければいけないのだけれど。
基本的に彼が作る料理というのは神気が入っている。だから私は食べることが出来ない。口にしても死ぬわけではないが、身体に神気が侵食すると人間ではなくなるため決して食べてはいけないのだ。
人間から神になってしまった者は人間の食事を口にしても味を感じないらしい。元々神の者は人間の料理を食べても美味しいと感じることが出来るらしいが、何だか不公平だ。


「主殿、おはようございます」

「あるじー!おはよう!!」

「たーいしょ、おはようさん」

大広間へと入れば、一期や短刀たちが迎えてくれた。短刀たちは一斉に私に抱きついてきて私はバランスを崩して尻もちをついた。いったい、めっちゃ痛い。

それを少し後ろから微笑みながら見守っている一期。完全に兄っていうか保護者じゃないのか?


「ねえ、主。さっきさ、こいつの事清光って言ってたよね?」
のしのしと四つん這いも状態で私に迫ってきた大和守は短刀達に囲まれる私の前で止まり、清光に向かって指を指しながらむすっとした顔になる。


「俺も呼んでよ、下の名前で」

「な…なんで?」

「わかるでしょ?っていうかわかってよ」
無茶言うなよ!!何なんだこのツンデレは!ツンデレかと思ったらいきなりヤンデレになったりするしこの二人怖いよ!!

無言で私を見つめたまま迫ってくる大和守に私は後ずさりながら、わかったから!と手を前に出す。

「安定…、これで満足した?」

「…ん、悪くない」
うっすらと笑みを浮かべた安定は満足そうだった。安定ってあまり感情を表に出さないからわかりずらいけど、清光と同じくらい甘えん坊なんだよなきっと。
困ったように私は苦笑した。するとそれを聞いていた他の刀剣達がずるいと言い始めた。なぜだ。


「主、僕を下の名前で呼んでいいんだよ?」

「歌仙の方が和泉守と間違えないでしょ」

「…」

「はい論破」


「主よ、俺も下の名前で呼んでくれて構わないぞ!」

「お前はびっくりじじいで十分だ」

「それはあんまりじゃないのか…?」

「驚きを求めないじじいになってください」

「うっ…それは…無理だ」
どんだけこいつは驚きが欲しいんだよ!


「それよりご飯食べるんでしょ、ご飯。冷めないうちに食べよう?」

「そうだよ、せっかく作ったんだからちゃんと食べてね」
パンパンと手を叩いて騒がしい場を静寂させた。隣でうんうんと頷く光忠にガタンと音を立てて立ち上がる歌仙。


「君はいい時に格好をつけるけれど、それは雅じゃないよ」

「今の君も雅じゃないでしょ、ハイ座って」

「…僕が…雅…じゃない…?」

「ちょwwwwww」
思わず私は吹き出してしまった。他にも数人噴き出している。今日やたらと論破されるな歌仙。
気が抜けたように座り込む歌仙にちょっと同情したくなったのは言うまでもないが、言ったらきっとキレるので本当にやめておこう。


笑い声が聞こえる本丸。ここまで良くなるとは思わなかったけどよかったんだと思う。ご飯を食べながら綺麗になった庭を眺めていると、隣に居た長谷部がどうかしましたか、主。と心配そうに覗き込んて来たので私は首を横に振った。

「ちょっとね、ここの本丸が良くなってよかったなって思ってたところ」

そういえば、長谷部は幸せそうに微笑んだ。
「私はここの本丸に主が来てくださって本当に感謝しているんですよ」

「私は主じゃないんだけどね、でも皆がよく思ってくれるなら悪くないかな」

「主です。誰が何と言おうとも、貴方は我らの主ですよ」
そんな寂しそうな顔で言われると否定出来ないじゃないか。長谷部も最初と比べて感情表現が豊かになったものだと実感する。


「はは、そっか。皆がそれでいいならいいよ」
ここを出て行くまでの間は主とでも掃除屋とでも呼べばいい。

ごちそうさまでしたをした後、台所で片付けをしていると短刀達がわちゃわちゃしながらこちらにやってきた。


「ねー主、僕と乱れよ?」

「あるじ、おそとであそびましょう!」
どうやら外で遊びたいらしい。寝たいけど、寝たいけど…うん。仕方ないか。いいよと頷くとわーいと飛び上がる短刀達。すっごい和むなあ。純粋な子供って可愛いよね。


「主よ、その後は俺らとも付き合ってくれ」

「花札でもやりましょうぞ、ぬしさま」


「お前らは勝手にやっとけ」

「そんなっぬしさま!!」
子供と大人の扱いはわけてるつもりです。
泣きそうな小狐丸から目を反らし、短刀達の場所へと向かう。


「主よ」
三日月に呼び止められる。
振り向けばとても見惚れるほど綺麗な顔で微笑んでいた。

「ありがとう」
心から籠もった感謝の言葉に私は、笑って背を向けた。

こんな日が続くなら、まだここに居てもいいのかもしれない。
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