「お姉ちゃん〜!今日は何をして遊びますか?」
「たくさん遊びたいなー!」

「そうじゃなあ…」
綺麗な赤い髪を靡かせ、考えるように頬に手を添える少女。縁側に座る姿はとても美しく、他の刀剣たちや人間をも惹きつけてしまう。そして、唯一の刀剣の中の女。
金色の瞳を細め、うっそりと微笑む姿に短刀たちも自然と頬を赤く染めてしまう。


「おお、隠れ鬼なんてどうじゃ!妾は隠れるのは得意ぞ!あっははは!」

ふふんと笑う少女は見た目に釣り合わず、独特な喋り方をする。
彼女は鬼丸国綱という粟田口派の太刀であり、しかし少々他とは違う特徴を持っている刀だ。まず現代においても鬼丸という刀は伝説ではないかというくらい、お目にかかれた者はかなり少ない。目撃者すらをも疑うほど、貴重価値がある刀だった。天下五剣としても名はしれているが、国宝ではないため、国宝展などに姿を現すこともない。影に潜む伝説の刀として名が高い。
審神者の間でも、鬼丸は未だに見つかっていない。ここの審神者のみが鬼丸を発見したのだ。鍛刀して手に入れたのではない。鬼丸はいくら鍛刀しようとも確率的にほぼ0%と言われるほどに作るのが難しいとされ、最も貴重価値がある三日月よりも上、それ以上とされる。データは非常に希少なもので、正確な情報はまだわかっていない。

鮮やかな長髪の赤髪を一つに結っており、金色の瞳を輝かせ、巫女の衣装を身に纏っている他の短刀よりも少し小柄な少女。その容姿とは裏腹に鎌倉初期に生まれた古刀である。
粟田口派ではあるが、吉光の作品ではないために、本当の姉弟とは言えない。しかし短刀たちを実の弟のように優しく接しているために、皆からの信頼は厚い。特に一期一振に関してはかなりの過保護で重度のシスコンであることだ。


「わぁ…隠れ鬼やりたい…です!」

五虎退は嬉しそうに微笑み、他の短刀たちもわーいと腕を上げて喜んだ。


「ぼくもかくれおにしたいです!おにさんはだれにするんですか?」

わくわくといった様子で鬼丸を見て首を傾げる今剣に鬼丸ははて?どうしようかの。と考えていたところ、集っていた皆とは体格も身長もまるで違う人物がのそのそと混ざりこんできた。

「何、隠れ鬼とな?このじじいもその遊戯に混ぜておくれ」
ほけほけと笑う三日月はしゃがんで鬼丸の視線に合わせると、頭を優しく撫でた。その瞬間に長谷部もびっくりな機動力で一期がやってくると、その手を振り払った。

「妹に触れないでいただけますか?三日月殿」

「おお、怖いな。頼もしい兄が居て羨ましいのぅ〜はっはっは」
一期に殺気を向けられる三日月は対して怯む様子もなく、マイペースに笑って手を引っ込めた。

「いち兄よ、そう怒るでない。別に頭を撫でられただけではないか」

「貴方はまるで警戒心が無いから困りますね。以前、三日月殿にされたことをお忘れですか?そこの小狐丸殿にも」
いつの間にか鬼丸の側に居た小狐丸は、はて?と首を傾げながら目を細めて笑う。すっとぼける三日月や小狐丸に一期は静かに怒りを上昇させていく。

「まあまあ、いち兄や。三日月に小狐丸。お主らも隠れんぼがしたいのじゃろ?よいよい、共にやろうぞ」
数は多い方が愉快だからなと満面の笑みで三日月や小狐丸に視線を向ける。


「鬼丸の許しも得た事じゃし、別に構わんだろう一期一振よ」

「……私も加わりましょう」
貴方たちが居ては安心出来ませんからと睨みつけながら鬼丸を背後から抱きすくめる。


「まっこと、お主は妹愛が強いのう。手厳しい」
そう言って裾で口を隠しながら妖艶な笑みを浮かべる三日月に、睨み続ける一期。

「おいおい、早く始めようぜ。そんなんじゃいつまで経っても始められねえよ」
ため息を吐いてやれやれと腕を組む薬研は一期と鬼丸の背中を押して短刀たちの元へと向かう。三日月と小狐丸は肩を竦めて、その後をゆっくりとついていく。


「おにまるさまー!いわおとしもさそいましたよ!さんかしゃいっぱいいますね!にぎやかでたのしくなりそうです」

「ガッハッハ!鬼丸よ、我も参加させてもらうぞ!」
今剣を肩車している岩融はにこやかにしながら鬼丸の近くにやってきてはそう言った。

「うむ、構わんぞ!そうだな、皆鬼で私だけ隠れるというのはどうだ?これでも妾は隠れるのに自信があるのじゃ!」

「えーいいけどそれだと鬼丸すぐ捕まっちゃうんじゃない?」
縁側で座り足をぶらぶらとさせる蛍丸にそう指摘され、ううむと首を撚る。


「のう、鬼丸よ。お主を捕まえた奴が一度だけお主にお願いできるというのはどうだ?捕まえられなかったら逆に我らがお主に何かしてやろうぞ」

「おお、それは名案じゃ!やるのぅ、三日月」

「はっはっは、じじいもたまには冴えるさ」

「駄目ですよ鬼丸!この方たちのお願いを聞くなど一体何を要求されるか…」

「はははは、心配性じゃのういち兄。なぁに、捕まらなければいいだけの話じゃよ」

「言ってくれる」
挑発と受け取ったのか、三日月は目を鋭くし、口角を上げる。

「しかしそれだけでは妾は不公平じゃな。公平にさせるために時間制限にしようではないか。時間制限までに妾を捕まえておればそなた達の勝ち。その制限までに妾が捕まっておらんかったら妾の勝ち。どうじゃ」

皆は頷いた。一期だけが頷かず、微妙な顔をしていたけれど。

「よし、始め!」

始まってから1分経ってから鬼たちは動き出す。仮にも鬼を切った鬼丸が鬼ではないという事に違和感を感じるものの、鬼丸は上機嫌に隠れる場所を探す。

キョロキョロと辺りを見回し、本丸の中に入り、ある部屋のタンスへと隠れた。小柄な体格なため、鬼丸がぴったりと収まる大きさであった。
パタンとタンスの扉を締めると視界は真っ暗になり、しん…と静まる。そして少ししてから動くぜ!と薬研の声が少し遠くから聞こえてきて、身を引き締めた。
見つかっても制限時間までに捕まっていなければいいだけ。制限時間は1時間だ。参加者がどれだけ多かろうともたった1時間ではどうすることも出来まい。


(しかし窮屈じゃな…)

すっぽり収まるタンスとはいえ、体勢が疲れる。
少し足を動かしたらタンスに足が当たってガタンッと音がしてしまった。


(しまった…!)

口を手で抑えて気配を消す鬼丸。
音に気付いたのか、音に敏感な小狐丸が襖を開けて部屋に入ってくる。



「こちらで音がしたような…。鬼丸、居るのか?」

押入れを開けたり引き出しを開けたりする音が聞こえる。



(来るな…来るな狐!)

祈る鬼丸だが、虚しく視界が一気に明るくなる。眩しく、目を瞑れば浮遊感。


「捕まえたぞ、鬼丸」
小狐丸が鬼丸を抱き上げ、その頬に頬ずりする。

「狐離せ〜〜〜〜!!!」
鬼丸はジタバタと暴れるが、男と女の力の差は縮まらない。


「柔らかい肌じゃなあ、もちもちじゃあ〜」

「やめんか!!う〜〜!!」
離せと言っても離すはずもなく、小狐丸は鬼丸を腕の中に閉じ込めて上機嫌にすりすりとする。じゃれる狐と暴れる鬼。何とも言えぬ光景がそこにはあった。



「鬼丸!!!」

スパァンと襖を勢いよく開いてものすごい形相で入ってくる一期一振。一期はその光景を目の当たりにすると、無言で柄に手を掛け、抜刀する。

それに小狐丸は、笑いながらそれを止めようとするが、一期は終始無言でそのまま刀を振り下ろした。流石に本気とわかったのか、小狐丸は鬼丸を離して素早く離れた。バキッと先ほど小狐丸が居た畳の場所には大きな刀の切った跡が残っていた。
さすがに鬼丸も冷や汗を掻く。この間も一期はキレていたが、今回はそれ以上にキレている。
そのまま距離を詰めて小狐丸に斬りかかる一期に小狐丸はやむを得ず、抜刀して対応する。ギギギと刃が擦れ合う音が響き、一期が一歩一歩と小狐丸を追い詰めていく。
練度は一期の方が圧倒的に上なのだ。小狐丸はまだ新しく、一期は審神者が大分早く鍛刀に成功した刀。つまりカンストしている。


「これはこれは…体制を立て直すか」

敵わないと悟ったのか、小狐丸は身を引いて去っていった。
一期はふぅ、と息を吐いて刀を鞘に戻すとゆっくりと鬼丸の方へと振り返った。


「や、やるのういち兄」

「変な規則を作るから皆おかしくなるんですよ鬼丸。私だっておかしくなりそうだ」

「はははは…ただの遊びではないか。何をそこまで…」

「お前に何があったら私は狂ってしまいそうだよ。だから…私が捕まえてあげましょう」
そう言って手を伸ばしてくる一期が何故か怖く感じて、私は後ろを向いて走りだした。
一瞬見えた一期の表情は悲痛で何かを噛み締めたような、そんな複雑な表情をしていた。


襖から出ると、短刀達がわらわらとおり、私を見つけると一斉にバタバタとこちらに走ってきた。中でも機動力が高い骨喰や五虎退はものすごい速さでこちらにやってくる。
しかし舐めてもらっては困る。妾だって機動力はかなり高い方だ。太刀の中では一番の自信がある。

「わああ鬼丸待てー!!」

「あははは捕まえてみろ弟たちよ!」

「言ったな鬼丸、覚悟しろよ」

ガチの声色で言うのをやめろ薬研。ビビるじゃろ!!

そう思いながらも鬼丸は笑顔で本丸の中を駆けまわる。途中で主が何やってんだ?と自室から顔を覗かせてきたので一緒に遊ぶかと誘ったら、ああーまた今度頼むわ。今忙しくてな。悪いなと申し訳無さそうに自室へと入っていった。

「うぅむ、主にも参加してもらいたかったのだが…仕方あるまい」
少ししょんぼりとして庭を歩いていると背後から急に抱きしめられたので反射的に振り返ればほけほけと笑うじいさんが居た。

「なんじゃいじじいよ、何用か」

「はっはっは、隠れ鬼の最中ではないのか?この通り、捕まえたまでだが」
そのまま三日月を後ろに引っ付けて縁側へと座る。三日月は何も言わずにその横へと腰を掛けた。だが、しっかりと鬼丸の腰には手を回したままである。


「どうした、鬼丸よ。何かあったのか?このじじいに相談してみるとよい」

「のう、三日月よ。妾はあの兄弟たちに混じっても良いのだろうか」
粟田口の刀であることには間違いない。だが親戚だ、どちらかと言えば鳴狐と近い。
それが突如この本丸に来て、あの兄弟たちに加わってもいいのだろうか。時々そう思う。自分は存在しているかも定かではないと言われた伝説の刀。それは孤独なものだった。時には天皇の元に長い間ぽつりと飾られていた事もある。そんな奴があんなに明るくて笑顔が溢れる兄弟に…

三日月は黙って聞いて、鬼丸の頭に手をポンと置いた。大きな三日月の手は小さい鬼丸の頭をすっぽりと覆ってしまう。突然の事に鬼丸はポカンとするが、見上げて三日月の顔を見ればとても優しさに溢れた、愛しい者を見るような目で鬼丸を見つめていた。
鬼丸は少し頬を赤らめる。


「孤独か、鬼丸よ。以前は俺もそのような事を思っていた。天下五剣という見た目のせいで刃を振るうよりもお飾りにされた。俺は刀だ。だから切るためにあるものなのに、人間は俺を使おうとしなかった」

珍しく饒舌な三日月に驚きつつも、その声色は真剣で、鬼丸はその言葉に耳を傾けた。



「だが、この本丸に来た時…主は俺の見た目など関係なく他の刀と分け隔てなく扱ってくれたのだ。俺は嬉しかった。刀として全うできることが、こんなにも嬉しかったと。幸せなことだと…な。のう、鬼丸よ、今お主は幸せではないのか?」

「しあわせ…」

「うむ、俺はお主が来てくれて嬉しいぞ。今ではこんなにもお主を愛しているがな」

「さらっと恥ずかしいことを言うな」
本当のことなのだがな…といつものように笑うマイペースじじいに振り回されそうな鬼丸は呆れた表情をして、そして考えた。


「幸せか、…うむ。幸せだなあ…、こんなにも毎日が楽しいと思ったのは初めてじゃ」

「弟達もお主のことを慕っておる。何を心配する必要がある?胸を晴れ美しき鬼よ」
そうか、そうか。そう思うと同時にじんわりと心が暖かくなった。もう、孤独ではないのか。


「そんなことよりも鬼丸よ、制限時間までじじいから離れるなよ。離すつもりもないがな」
「雰囲気をぶち壊すのが得意だな、三日月よ」

「はっはっは」

その後、セクハラされそうになったので必死に逃げた。それでも執念に追いかけてきて捕まり、また逃げと防戦を繰り広げていると、それを阻止しようと薬研が三日月の背中に飛び蹴りを食らわせたり、小狐丸も加わってきて、音で駆けつけてきたブラックオーラ全開の一期一振も加わって大乱闘と化していた。修羅場だ、大修羅場だ。
戦場よりも気迫がすごいってどうなんだ、この本丸で。


「そうカッカッするな一期よ」

「貴方達が何もしなければ済む話ですが?」

「カッカッカ!呼んだか?」

お呼びでない山状も加わってもう何が何だかわからなくなった。
一期と三日月の練度はほとんど大差は無いので互角の戦いを繰り広げている。その蚊帳でぽつりと佇む鬼丸。


「もう少しで制限時間…妾はじっとしておく方がいいのか」

それともあの大乱闘を止めるべきなのか。いや、あんな中に飛び込んだら重傷待ったなしだ。それほど勇気は無い。
でも、そうだな。妾は……
時間が終わりを告げる頃合い、鬼丸は笑って背後から抱きついた。


「いち兄!」

「…!?鬼丸…?!」
鬼丸が飛びついたのは一期。一期は予想外だったようで、構えていた刀を落として後ろに抱きついてきた鬼丸を目を見開いて見た。



「先程は悪かったな…いち兄。妾は…不安だったのじゃ…、その、皆に本当は距離を置かれているのかと思うて…」

「…!そんなことありませんよ、鬼丸は私達の兄妹です。例え親戚という関係でも、変わりません。お前は私の可愛い妹だよ」
そう言って鬼丸の方に身体を向けて一期は鬼丸を優しく抱きしめた。


「ほんとうか?妾はずっとここに居て良いのだな…?」

「ええ、寧ろ居てくれなければ困りますね。居なくなった時は死んでも見つけ出しますよ」

「ん?死んでは見つけられぬぞ?」

「ふふ、それくらい気持ちは強いってことですよ」
一期が鬼丸の額に口付けるのと同時にピピーッと制限時間を超えた音が本丸に響き渡った。
三日月や小狐丸は先を越されたと言う風に肩を竦めており、短刀たちはずるい〜〜〜と一期と鬼丸の周りに集まった。
一期は今更ながら顔を赤くして、もう欲しいものは頂きましたからお願いは大丈夫ですよ。と言って鬼丸から離れた。

鬼丸も顔を赤くして、そ、そうか。よかった。と俯いた。



「何だろう、この純粋な2人」

「これがぴゅあと言うやつか!はははは、驚きだな!」

燭台切と鶴丸は少し離れた縁側でその様子を見守っていた。

今剣と岩融に茶化されたので、むっとなって仕返ししようとした鬼丸はこの後めちゃくちゃ高い高いされた。

END
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