晴天の青空、静かな庭、そしてぽつりとそこに座り込む少女。
「これほど鬱になりそうな日常はないわ…」
彼女は項垂れた。
私は審神者というわけでもなく、ただの同居人…といったほうがしっくりくるだろう。
審神者が居ない本丸…と言いたいわけではない。審神者は姉、私はその居候というだけの話だ。何故姉が生身の人間である私までここに連れてきたかと言えば話は長くなる。
はっきり言って姉はあまり好きではない。というか嫌いだ。
ここには刀剣たちが短刀、脇差や太刀、大太刀もそれぞれ合わせて40口くらいは居るだろうか。
三日月宗近という刀剣たちの中でもずば抜けて美しい刀が現れた時から、その前からも姉の様子は一段と変わった。
姉は何というか男癖が悪いし、人使いが荒いし、自分が女王様とでも思ってるのだろうかと目を疑いたくなるくらいの自分勝手。
小さい頃に仲が良かった私と姉はやはり周りからは比べられた。私は比較的何でも出来て、天才とも呼ばれた。しかし姉は不器用で才能なんかこれっぽっちもない…と周りからは思われたらしい。私が天才だなんて大袈裟すぎる、と姉を説得しようとしたけど…やはり周りからの目には耐えられなかったらしい。姉は壊れてしまった。
姉は私を使って、あたかも自分に才能があるような振る舞いをさせた。それとは対照的に私は何も出来ない落ちこぼれ…と周りに認識させたのだ。最初は姉の事を悪くは思ってはいなく、寧ろ積極的にフォローしようとは思っていたが、いつからか、そんな姉にもううんざりとしていた。
別に私が落ちこぼれだろうとも構わない。周囲の目なんてたかが知れているのだから。姉はそんな私を利用して気取って周りから賞賛されたいのだ。妹としてどう思うだろう。呆れるしかない。
しかし、私はそんな姉を心底呆れて嫌って居るがそれを口には出さない。姉に言ったら怒るだろうが、同情というやつだ。私には才能があって、姉にはない。そんな状況で周囲の目を気にするな…なんて言えない。もしもそれが私だったとしたら、妹を利用としなくとも心が折れていたかもしれない。他人ごとではないからだ。
この本丸では、基本的に私が家事をやり、姉には神気を送っている。政府が言うには私の神気は膨大らしく、付喪神をも上回るレベルらしい。最初は巫女か?なんて聞かれたけど生憎神を信仰する趣味はないし、そういう家系でもない。
皆は才能があれば羨む。皆口を揃えて羨ましいという。しかし、才能があるから幸せとは限らないのだ。
姉に使うために存在する才能だとするならば、私は要らない。
審神者は霊力を基本使うが、私は何故か神気が使える。何かの守護なのかはわからないが、霊力ではなく、神気でこの本丸を維持させているのだ。
この神気はコントロールも可能なため、他の刀剣たちにはバレない。
こっそりと姉に送ることは出来るのだ。
お陰で私は本丸から離れの場所に穏やかに、静かにぼっち生活を堪能している。
最初はよかった、なんて静かで自由な場所なんだと。でも流石に寂しいではないか。テレビでも置いてくれよ、ずっとパソコンだとか音楽聴いてるだとか身体が動かない生活はさすがに経てば経つほど嫌になってくる。
でも余計な事は出来ないし…。本丸から離れと言っても何か騒音を立てれば普通に聞こえるレベルの距離だ。結果、何も出来ない。何と悲しいのだろうか。
縁側に座っていると、鳥達がチュンチュンと可愛らしい鳴き声で私の肩に止まってくる。
おうおう、癒してくれるのは君たちだけか。おばあさんちょっとさみしいなあ。でも君たちが居れば笑うことは忘れないさ。
私を慰めてくれているのか、鳥は私の手の付近にやってきて、指にすりすりと擦り寄った。ああ、なんて可愛らしい。
この鳥達でさえ居なくなってしまったら私はうつ病にでも掛かってしまいそうだ。
だからと言って刀剣たちにも近づいてはいけない。
姉からは、家事の時とかは仕方ないけど、それ以外の目的が無ければ神には近付くなと言われている。何て理不尽なんだろう。まあ、私も別に刀剣たちにお近づきになりたいとかそういう気持ちはなかったからすんなりと頷いたけど。
現在姉は、三日月とやらを手に入れてから三日月と自室にずっと篭っているようだ。夜伽…という可能性は非常に高い。それからというものの、刀剣たちには重傷になれば手入れをするが、中傷程度では手入れをせず、前まで少なかった資材はどんどんと積み重なっていくのがわかった。
前までは足りない!とか大騒ぎしてて、皆重傷にさせて出陣にも出せなかったから私が資材を取りに行く羽目になったけど。全く、人使いが荒いものだ。これが所謂ブラック本丸というやつだろうか?仮にも女の私に出陣させるなんてね、自分が女って自覚はないけど。いっつもジャージとかシャツズボンだし。すっぴんだし、おめかしとかまだ全然したことないし、したいけど買いにもいけないし…。
あ〜あ、一度城下町とか出て美味しいお団子とか可愛い洋服とか着物とか見たいなあ。ショッピング堪能したい…と縁側で体育座りをして顔を足の間に埋める。
才能を持った罰だろうか?神は何のために私に才能を与えた。才能があるなんて不公平だ!なんて誰かがいうけれど、そりゃこっちの台詞じゃアホタレが。
城下町というか、現世に帰りたい。でも私が帰ってしまったら姉が困るだろう。
どうしたものか、と台所に行って夕飯の支度を始める。
皆の好みがわからないから正直何を作ったらいいのかわからない。とりあえず健康とバランスは考えてカロリー計算して、献立みたいなのは作ってはあるけど。
やっぱり和食じゃないと皆の口に合わないよね。洋食が恋しくなる。あ、後でこっそり作って食べようかな。肥えることなんて気にしない。