審神者ではない才能を持った少女 | ナノ






※まだ刀剣たちは出てきません












刀は昔から、職人の手によって魂が込められている。そんな言い伝えが古来から存在する。あくまでも言い伝えだ。真実を見た人間は現代になっても存在しない。しかし、語り継がれてきた伝説として、刀は生きている。そう言う学者や職人は言う者も居る。伝説、というのは殆ど言い伝えであり、先祖から代々伝わってきているだけで、どこからが本当で、どこからが嘘だなんて誰にもわからない。わかるとするならば、死人だけだろう。それか、神か。

神は実体を持たない。何かの器に入らなければ目には見えぬもの。器を持たない神は、異次元である現代にやっては来られるのか。

神のみぞ知る不可思議。









「現代で…私を?」

まるで意味がわからなかった。彼らがこちら側までやってこれるだなんて想定するはずがない。この一年の間で、彼らは一体何をしていたのか。知りたいが、知りたくもない話だ。

それを何故、姉は知っていたのか。それを問えば、政府の人たちに教えてもらったという。



政府は私達がいた本丸を倒壊し、刀も刀壊したと言っていた。それではまるで、その話が嘘のようではないか。刀壊したならばもう彼らは元に戻るはずがないのにと思って、私は自分が思っていることが残酷な事だと気付いた。助けてくれた彼らも刀壊されてしまったのだろう。政府に言う前に、既に刀壊されてしまっていたのだから手の施しようがなかった。こんなの、言い訳にしか過ぎないけれど。


本丸を全て消去した後には続きがあるという。

政府が言うには、元に戻し刀解した刀は再び鉄に戻ったことは確からしい。本丸が消えたのも、彼らが消えたのも事実だ。
しかし他の審神者での鍛刀で出てきた刀が妙に他の審神者たちが持つ刀と違ったらしい。全体的に色が黒っぽく、最初から刃こぼれがある刀。審神者はこれを失敗だと思って刀解しようとしたらしいものの、勝手に具現化してしまったというのだ。
その刀は本来の刀とは全く違い、主に向かって非道な言葉を浴びせた後、最後にこう言ったらしい。




「お前は、主ではない」
そう言って、どこかへと消えてしまったらしい。その現象は他の審神者のところでもいくつか起きていた。
現代ではリサイクルというものは当然ながら存在するが、遠い未来だというあの世界にも存在する。刀解した資材は捨てられずに、新米審神者の贈呈品として送られることもあるのだ。それがもし、彼らを刀解した資材で鍛刀したならば…不可能ではなかった。


再び彼らが鍛刀されるということに。


それが政府に報告され、彼らを探すものの見つかっていないという。監視下にいる政府ですら一切見つからない。それならば、残された可能性は…現代に行ったということだ。



「あいつらがこの世界に居るって確証はないけど、私は…居る気がしてならない。勘がそう言ってる」

「お姉ちゃんの勘、よく当たるもんね…特に悪い予感が」

「悪い予感で悪かったわね」
必ずというわけではないけれど、姉の悪い予感というのは当たることが多い。それも少しのことでは当たらないが、大事に自分たちの身に危険が迫ると途端に当たるのだ。悪運とも言うだろう。



「でも、叶うのなら、私は彼らにもう一度会って…謝りたい」

「…それがどういうことかわかってるの?そのもう一度は、あんたの最後になるかもしれないのよ?それに、あんたが謝る必要性なんてないわ」

確かに岩融や今剣、五虎退たちの事はお気の毒だったけれど…と言いながら姉は引き止めた。そう、彼らに再び会ってしまえばきっと私は”ここ”には戻れなくなってしまう。姉とこうして話すことも、家に帰ることも、私が帰る場所は奪われてしまうだろう。私はきっとこうしてじっと静かに暮らしている方がいいのだ。
だけれど、それで解決する問題だとも限らない。


「今は大丈夫でも、私達がここにずっといられるなんてきっとない。離れた時に、もし出会ってしまったなら…、もし死ぬ間際にでも会ってしまったら…」

そんな不安が一生付き纏ってくる。今会わなくても10年、20年…死ぬ時までわからない。だからと言って死ぬという無謀な事もしない。





なら、





「私は今できることをしたい」








ずっと彼らに背を向けているだけだった。ずっと彼らから逃げていた足を止め、振り返った。
後ろを向けば彼らが居た。顔はわからない。だったなら、彼らの顔が見えるまで近づこう。彼らの居るところまで。足を彼らの方向へと動かせた。

そんな私に姉は深くため息を付き、はっと呆れたように笑う。


「世話の掛かる私と、とんだ事を考えるお節介な妹だなんて…これだから父さんも母さんも、居なくなるのよ」
ほんと、笑っちゃうわと少し切なげに表情を歪めて、しかし次には姉らしい困った表情で妹の背中をバシンと勢い良く叩く。



「行ってきなさい、馬鹿すみれ」

「…うん」

「死んだらただじゃおかないから」

「…うん」

「私も…」


いつ行けるかわからないけれど、私もすぐに後を追うから。



真剣な顔つきで言う蘭姉は、小さい頃の蘭姉と…ううん、違う。もっと綺麗で、逞しかった。

憑き物でも取れたかのように、見違えるような姉の姿に、私は本当に姉が悪霊にでも取り憑かれていたのではないかと疑ってしまうほど驚いた。


彼らが本当に居るかはわからない。でも、もし助けてくれた彼らが、何かに取り憑かれてしまったように狂ってしまった彼らが居るのなら、今度は背を向けずに向き合いたい。それで彼らが変わらなくても、私には意味があったと思える行動ならば悔いはない。…なんて言ったら蘭姉は怒るだろう。

二人しか居ない隔離病棟の階段をコツコツと音を響かせながら私は降りる。蘭姉はベッドからこちらを見て、手を振る。


何だか、そっくりだった。

あの笑顔が鏡でも見ているかのように見えて、姉妹なんだなと実感させられる。
階段へと視線を戻せば、階段から見える病棟の出口は自棄に暗く見えた。何も見えない外は、恐怖も不安も、様々な負の感情が入り混じる。


それでも、私は彼らに言わなければならない。


終止符の言葉と始まりの言葉を彼らに。